「んっ、ぅう……」 　セシルの後頭部を支える彼の手がずっと強くなる。 　セシルもまた、彼が着ているジレの皺に指を埋め、逃げられないよう、しっかりと握った。 （ヴィンセント……） 　どちらからともなく口角を変え、互いの唇を貪り合う。 　セシルは今、カールトン卿の力強い腕に包まれている。しかも与えられる口づけで上気した身体は寒さを感じない。それなのに、セシルの全身がぶるりと震えた。 　けれどこの震えは少しも不快ではない。それどころか、気分はずっと高揚している。彼とのこの行為を楽しんでいる自分がいた。 　今のセシルには先ほどまでたしかにあった羞恥はすっかり消えている。彼から与えられる口づけをせがむようにして自らも舌を伸ばし、ざらついた舌に絡め、強欲に求めていた。 　すると低く、くぐもった声が彼の薄い唇から放たれた。同時に薄い唇がセシルから離れる。 　生まれた距離に寂しさが胸を過ぎる。その反面、どこかほっとする。 　セシルの心臓は早鐘を打ち、これ以上彼とこの行為を続けることができなかった。 　セシルは、はじめての口づけですっかり腰砕けになっている。 　身体から力が抜け落ち、座っていることさえもままならない。 　視界が大きく揺れ、身体が傾いた。 　後ろからべったりと倒れそうになる身体を、伸びてきた力強い腕が支えてくれた。 　逞しいカールトン卿にその身を預ける。 　カールトン卿と口づけを交わした唇が濡れている。セシルは浅い呼吸を繰り返すその唇に指を当て、甘い余韻に浸った。 「セシル……」 　分厚い胸板から響く振動はもはや少しも安らぎを感じない。 「……は、い」 　息が上がる。 　浅い呼吸を繰り返しながら、セシルはやっとのことで返事をした。