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不機嫌。
――セシルが自室を欲しがる理由。それはけっして、『年頃の男子が部屋を持っているから』というものからではなかった。
……本当は、『昨日交わしたカールトン卿との口づけが忘れられなくなってしまったから』だ。
昨夜、カールトン卿とセシルとの間にあった出来事は過ちに過ぎない。
カールトン卿にとって、昨日の口づけはその場の雰囲気に流されてのことだ。それは十分判っている。だって自分も彼の容姿に心を奪われ、口づけを交わしたのだから。
しかしそれでも――。セシルは彼との口づけをまた今日も――と、心のどこかで期待していた。
昨夜の行為を思い出すたび、下肢が疼く。おかげでセシルは今日という一日の大半をカールトン卿と交わした口づけのことばかり考えていたのだ。
幸い、カールトン卿は日中もまた公務で書斎にこもりきりだった。おかげでなんとかなったものの、彼と顔を合わせている今、事態はとても深刻だ。
こうして彼の側にいるだけでもセシルの身体におかしな反応が出てしまう。
自分だけがカールトン卿との口づけを待ち望んでいる。そう思うと、なぜかセシルの胸がきりきりと痛み出した。
同性と口づけを交わすことなんてあってはならないこと――。
それなのに、セシルはそれを望む。
(胸が痛い)
苦しくて苦しくて、セシルは馬油で潤ったその手をきつく握り閉める。
「セシル、いくら君の頼みであっても、それは聞けない」
「でも、僕は!」
視線を上げると、彼の視線とぶつかった。
やはり彼は不機嫌そうだ。
(僕が怒らせてしまった……)
どんな時でもおおらかで優しい彼を自分のわがままで怒らせてしまった。
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