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誤解。
そう思うと目は潤み、涙袋に溜まっていく――。
セシルはすっかり自暴自棄に陥ってしまった。
「ごめ、なさい……」
握り閉めたその手は、より強い力がこもる。
激しい自己嫌悪。そしてセシルの淫らな想像でカールトン卿を汚してしまった罪悪感がセシルを襲う。
ところが、彼が不機嫌な理由はセシルが思っているものとは違っていた。セシルがそれに気付いたのは、彼がセシルの前で跪いたからだ。
セシルと視線の位置が重なると、彼は静かに口を開いた。
「ああ、セシル違うんだ。ぼくは君を責めているわけではない。たしかに、年頃の君には部屋が必要だ。ぼくもそう思うよ。――ただね、君には監視が必要なんだ。それがなぜだか判るかい?」
骨張った大きな手がセシルへと伸びる。きつく握りしめた皹のある汚い手を、その手が慈しむように包み込む。
監視が必要な理由を尋ねられても判るはずがない。だからセシルは小さく首を振った。
「セシル、いいかい? 君はまだあの屋敷にいた頃の習慣が抜け切れていない。一人になった途端、君はまた無理をするだろう。セシル、君はぼくの許婚だ。ぼくと君とは対等な立場なんだよ」
サファイアの瞳が優しくセシルに語りかけた。
――違う。
自分はカールトン卿とは対等になれない。
そう思いながらも否定しなかったのは、それ以上に一人部屋が欲しかったからだ。
「無茶はしません、約束します。だから僕に一人部屋をください」
そしてどうか今すぐ、自分の手を包むこの手を離して――。
セシルは切に願う。
けれどもセシルのそんな願いを知らないカールトン卿はさらに距離を縮めた。
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