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飛び火。
首を傾げるセシルに、貴婦人は目尻の皺をいっそう深くして微笑んだ。
「わたしはイブリンの姉のサーシャ。隣の彼は夫のミガロよ、息子のガストンとはもう話したわね?」
「よろしくお願いします」
サーシャはとても話し好きな女性らしい。セシルが改めてグレディオラス家の人々にお辞儀をした後、彼女はすぐに話題を変えた。
「それで? ガストンはもう意中の女性を見つけることができたのかしら?」
イブリンが尋ねると、「そう、そこなのよ! イブリン、どうか聞いてちょうだい!」と、サーシャはヒステリックになった。
「母さん、もうその話はやめよう」
そう言ったのはガストンだ。彼はその話を何度も聞かされているらしく、うんざりした様子でセシルと、それからカールトン卿を見た。
カールトン卿は彼の気分がどれほど憂鬱なのかを知っているのだろう。ガストンの肩を叩き、同情を寄せた。
「ほら、この子ときたらいつもこうなのよ。この年齢になっても女性とのスキャンダルのひとつも無いの。ハンサムなのにどうしてこうなのかしら! それに引き替え、ヴィンセントはもう決まった相手がいるものね、社交界に興味がなくってもあまり気にすることないじゃない?」
そこでセシルははっとした。
なんということだろう。
『決まった相手』と彼女は言った。
サーシャの口ぶりからして、自分がカールトン卿の許婚だということを知っているようだ。
自分とカールトン卿は同性だ。けっして夫婦にはなれない。それなのに、彼女たちはさしたる問題もないかのように話題を続ける。
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