98 / 241

飛び火。

 首を傾げるセシルに、貴婦人は目尻の皺をいっそう深くして微笑んだ。 「わたしはイブリンの姉のサーシャ。隣の彼は夫のミガロよ、息子のガストンとはもう話したわね?」 「よろしくお願いします」  サーシャはとても話し好きな女性らしい。セシルが改めてグレディオラス家の人々にお辞儀をした後、彼女はすぐに話題を変えた。 「それで? ガストンはもう意中の女性を見つけることができたのかしら?」  イブリンが尋ねると、「そう、そこなのよ! イブリン、どうか聞いてちょうだい!」と、サーシャはヒステリックになった。 「母さん、もうその話はやめよう」  そう言ったのはガストンだ。彼はその話を何度も聞かされているらしく、うんざりした様子でセシルと、それからカールトン卿を見た。  カールトン卿は彼の気分がどれほど憂鬱なのかを知っているのだろう。ガストンの肩を叩き、同情を寄せた。 「ほら、この子ときたらいつもこうなのよ。この年齢になっても女性とのスキャンダルのひとつも無いの。ハンサムなのにどうしてこうなのかしら! それに引き替え、ヴィンセントはもう決まった相手がいるものね、社交界に興味がなくってもあまり気にすることないじゃない?」  そこでセシルははっとした。  なんということだろう。 『決まった相手』と彼女は言った。  サーシャの口ぶりからして、自分がカールトン卿の許婚だということを知っているようだ。  自分とカールトン卿は同性だ。けっして夫婦にはなれない。それなのに、彼女たちはさしたる問題もないかのように話題を続ける。

ともだちにシェアしよう!