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影。

「大丈夫か? ぼくも一緒に出よう」  カールトン卿はどこまでも優しい。しかし、彼に甘えるわけにはいかない。  だってせっかく親戚と対面したのだ。きっと話したいことが山ほどあるに違いない。自分ばかりにかまけてはいられない。 「あの、平気です。すぐに戻りますから」  セシルが首を振ると、彼は眉根を寄せながらもそれ以上は何も言わなかった。 「いくら体調が良くなったとはいえ、君はまだ病み上がりだ。くれぐれも無理はしないようにするんだ。何かあったらすぐにぼくを呼びなさい」 「はい。ありがとうございます」  セシルが身を引くと絡んでいた指先が離れた。  解放された筈の指先は、なぜかとても冷たくなっていく。  カールトン卿と離れた。そう思うとまた胸が痛んだ。  セシルは痛む胸を無視して同席している五人にひとつお辞儀をすると、足早に会場を抜け出た。  ――ひんやりとした夜気がセシルを覆う。  今夜は満月らしい。柔らかな丸い月が藍色に染まった空に浮かび上がっていた。  乳白色の照明が照らす中、張り詰めていた息をそっと吐き出す。  ――その時だった。 「セシル・ハーキュリーズだね?」  年は四十そこそこだろうか、けっしてハンサムとは言い難い中肉中背の見知らぬ男が声を掛けてきた。 「そうですけれど、僕に何か?」  セシルが頷いたその瞬間、男は動いた。  懐からハンカチを取り出し、セシルの鼻と口を塞いだ。  セシルは息苦しさに足をばたつかせる。しかし男の力はずっと強く、簡単にセシルを抑え込んでしまった。 「っふ、ぐ……」  脳に酸素が行き届かず、視界が白く翳んでいく……。 「お前さんには少し一緒に来てもらうよ」  その言葉を最後に、呼吸ができなくなったセシルはとうとう意識を手放した。

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