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会いたい。
男が無理矢理後孔に指を突っ込んだから中が切れたらしい。真っ赤な鮮血がそこから流れ出す。
セシルは必死に首を振り、いやいやを繰り返した。しかし涙を流すその行為が彼らを刺激していることをセシルは知らない。後孔に差し込んだ指の動きはさらに大きくなっていった。
「痛っ! いやっ、痛いっ!!」
恐怖に陥るそんな中でもセシルの脳裏に真っ先に浮かんだのは、涼やかな双眸をしたカールトン卿の姿だ。
何があってもセシルを優しく包み込んでくれた彼は、けれども今、ここにいない。
この男たちは、『自分を売り飛ばす』と言った。もしかすると、このままカールトン卿とは永遠に会えず仕舞いになるのかもしれない。そう思った時、セシルの胸が痛みを訴えた。
(このまま会えなくなるなんて嫌だ!)
「っふ、ヴィンセント!!」
(会いたい。彼に会って、もっとずっと側にいたい)
彼の名を呼び、セシルは懇願する。けれどもそれは叶わない夢だということは知っている。
(ヴィンセント……)
ーー今頃は自分がいないという事実に気が付いてくれた頃だろうか。
彼は自分を探してくれているだろうか。
ーーいやそれはない。
赤い目に赤い髪。まるで人の生き血を吸ったような気味の悪いこんな容姿の
自分なんか探しに来ない。
むしろこんな薄汚い自分から離れることができて清々しているに違いない。
一体誰が好きこのんでこんな恐ろしい姿をした自分を許婚にするだろう。
彼はきっと両親から弱みを握られ、嫌々ながらに自分の面倒を見る羽目になったのだ。
セシルが売り飛ばされることこそがカールトン卿の望みなのかもしれない。
だって美しい彼が気味の悪い自分を側に置く利得は何もない。
もしかすると彼は今、この瞬間にもあの会場で好みの女性を見つけて口説いているかもしれない。自分の事など忘れて、仲良く微笑み合っているのかもしれない……。
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