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縛られた腕。
引き裂かれたジレとジュストコール。足首まで下ろされたキュロット。
剥き出しになった下肢がカールトン卿の目に入ったのだろう。彼のまとう雰囲気が一変した。
「貴様ら……」
カールトン卿は低い唸り声を上げると、セシルの意図に反して盗賊たちに向かって勢いよく突っ込んでいく。
「いやだっ! 逃げて。ヴィンセント!」
セシルは悲鳴を上げ、助けに来てくれた彼に逃げるよう叫ぶ。しかし、明るいこちらからでは人影しか見えず、中央で何が起こっているのか判らない。
「ヴィン、セント……」
カールトン卿は今、どうなっているのだろうか。張り詰めた空気の中、呻き声ばかりが聞こえてくる。
セシルは、呻き声を上げる男たちの中にカールトン卿が混ざっていないよう、祈った。
(ヴィンセント、ヴィンセント!)
セシルは拘束から逃れようと、強く縛られているその腕を懸命に動かす。けれどもセシルの貧弱な力では縄は解けず、皮膚に食い込んでいく。
骨が軋みを上げ、縄に擦れた皮膚が熱を持つ。おそらくは縄の痕がくっきり付いているに違いない。しかしそんなことを気にしている場合ではない。なんとかして彼を、カールトン卿を助けなければ――。
セシルはその一心で痛みを振り切り、懸命に歯を食いしばる。腕を動かし続けた。
けれどもその行為も虚しく、やがていくらもしないうちに呻き声は消え、周囲には静寂が戻った。
――ゆっくりとこちらに向かってくる影がひとつ。それ以外は見当たらない。どうやら残ったのはたった一人だけらしい。
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