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影、佇む。

 ⅩⅤ  そこは荒れ果てた工場跡地が多く残る陰湿な場所だ。  昔こそ繁栄していた土地だったが、今はすっかり荒れ果ててしまった。  ここはごろつきたちや世間に捨てられた人間たちが住んでいる。そういうことからこの地に人通りはなく、過去に疫病が流行ったこともあってスラム街と化していた。  そんな閑散とした片隅に、一人の女性がいた。  身にまとっている漆黒のローブはまるで闇そのものだ。彼女はフードを深く被り、巨大な倉庫の中で震えている青年とカールトン一族を呪わしげに傍観していた。  彼らを見る彼女の目はぎらつき、憎しみにあふれている。 (ふん、役立たずが!)  目と鼻の先では、三人の男たちが尻尾を巻いて逃げていく姿がまざまざと見える。  いかにも強面な容姿をした彼らは存外、役には立たない。しかしそのことは彼女自身、もう既に知っていた。だからこそ、彼らに任せきりにせず、この目で事の成り行きを見届けに来たのだ。  ――とはいえ、やはり金さえ渡せばなんでもする彼らを雇ったのは間違いだっただろうか。  いや、十分な収穫はあった。  収穫はカールトン卿が抱きしめているあの青年だ。  カールトン卿は彼を助けるため、このような辺境の地にのこのこ現れた。  わざと人相の悪い彼らを選んだのは正解だったようだ。  おかげで彼は見事盗賊の足取りを追い、ここまでやって来てくれたのだからーー。名もない、どこの馬の骨かも判らないような奴らを使った甲斐があったというものだ。  紅を引いた赤い唇が弧を描き、不気味に笑う。  震える青年を優しく抱き締めるカールトン卿を見ていた彼女はほくそ笑み、やがて深い闇の中へと消えていった。

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