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芽生えた恋。
きっと彼が経験豊富だからに違いない。この行為はけっして自分が初めてではない。
彼は過去にもこうやって相手に触れた経験があるのだろう。
薄い唇が愛を告げ、自分ではない誰かの柔らかな肢体に自らの欲望を刻み込み、愛の言葉でも囁いて――。
(いやだ!)
側にいてほしい。
カールトン卿が自分ではない女性を抱く光景を想像した時だ。セシルの中で今までになかった独占欲が剥き出しになった。
果たして自分は何を思っただろう。
――好き。
自然とその言葉がセシルの頭に過ぎった。
(ああ、僕はーー)
セシルはいつの間にかカールトン卿を愛していたのだ。
だからだ。つい先ほどまではあんなに恐怖を感じていた行為は、けれども彼が相手だと簡単に身を委ねてしまうのはーー。
この恋はいったいいつ芽生えたものだろうか。自分に尋ねてみれば、答えはすぐに見つかった。
それはきっと、初めて会ったあの時から――。
セシルの恋は始まっていた。
ダンスが苦手だとそう言って、見窄らしい自分に手を差し伸べたあの時。
一緒に輪舞を踊ったあの時――。
セシルの心は既にカールトン卿に染まっていた。
もし、今、セシルのこの恋心を告げたらカールトン卿はどう思うだろう。
自分を受け入れてくれるだろうか。
――いや、それは有り得ない。だって自分はこんなに見窄らしい。
まるで人の生き血を吸ったような目と髪はおぞましい赤の色をしている。
それに彼とは同性だ。
口でこそ彼はセシルを許婚だと言ってはいるが、実のところは違うはずだ。
心優しいからこそ、彼はセシルを見た目で判断せず、こうして面倒を見ているだけ……。
セシルは慕情を抱いていたとしても、彼にとってはただの義務感。ただそれだけにすぎない。
だって彼にはセシルを抱く機会がたくさんあった。それなのに、彼は盗賊たちがしようとしていたようにセシルの後孔を彼の一物で貫こうとはしなかった。
それはひとえに、カールトン卿にはその気がないからだ。
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