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おともだち
「なあ、まだかよ。一周してきちまったよ」
書店にて、目当ての本を真剣に選んでいると、暇潰しにさ迷っていたらしい真宮が戻ってくる。
「もう一周してこい」
「だだっ広いんだぞ!? 無茶言うな!」
「ちょうどいいじゃねえか。まだ暫くかかりそうだし。突っ立ってるよりいいだろ」
「マジかよ、何でそんな時間かかんだよ。もう俺何してりゃいいんだよ」
「児童書でも見てろよ。大人しく待ってろ」
「見ねえ!!」
傍らで佇み、手元を覗き込みながら声を掛け、退屈そうに溜め息をついている。
そんな彼をよそに、先程からどちらの本を買うかで迷っており、こうなるとなかなか決められない。
どっちも分かりやすいし、値段も大して変わんねえんだよな。
「なあ、芦谷。腹減ったよ。昼過ぎてんだぞ?」
「何か食ってくればいいんじゃねえ? その辺に何かあったろ」
「何で一緒に居んのに俺だけ飯食ってこなきゃなんねえんだよ。虚しいだろ」
「俺は今忙しい。見て分かんだろ」
「ああ、はいはい。忙しいよなあ。そろそろ決めてくんねえ? で、飯食お」
「無理だ」
「なんでだよ~! てかどっちも同じだろ、それ」
どちらも捨てがたく、一冊ずつ持ちながら交互に眺めていると、隣に立っていた真宮が指し示して口を挟んでくる。
「全然違ェだろ。テメエの目は節穴か?」
「そんな怒るか……? だってよぉ、タイトルも一緒じゃねえか。はじめての野菜づくりって、え……? つうかお前野菜作んの? どこ目指してんだよ」
「トマトはもう作ってんだよ。他にも何か、やってみてえなって思うから基礎をちゃんと知りたくて」
「ふ~ん。あ、じゃあ俺枝豆がいい! ビール持ってく!」
「却下。テメエに出すつまみはねえ」
「うっ、芦谷が俺に冷てえ……。漸 には優しくするくせに……」
「拗ねんな。別にそんな事ねえだろ」
でも枝豆はいいな、なんて考えながら本を見比べていると、たまたま棚へと収められていた一冊が目につき、つい惹かれて手に取ってしまう。
ページを捲ると、次第にこれもいいと思えてきて、ただでさえ決めかねていたところにいきなり候補が増え、いよいよ悩み過ぎて頭がこんがらがってくる。
俺はどれを買えばいいんだ……?
「おま、何さらっと増やしてんだよ! 迷うな決めろ!」
「ならもうお前が決めてくれ……。どれがいいと思う」
「どれがいいってお前……、無茶振りにも程があんだろ~! 諦めてんじゃねえ!」
「飯食いに行きてえんだろ。決まらねえと行けねえ……、ん? なんだあの本。アレも何か……」
「おいおい、もうやめろ! 見んな! これ以上選択肢増やすんじゃねえ! もうこの中から決めろ! いいな!?」
視界を阻まれながら、これだけを見ろとばかりに三冊を並べられ、まだまだ決められそうにはない。
【END】
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