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エメラルド

振り返ると、帽子を被せられたところであり、優しさに充ちた影が落ちる。 つばへと手を添え、僅かに上げて視線を向ければ、腰を屈めて微笑む秀一と目が合う。 「どうだ? 今朝の状態は」 傍らに移動すると、同じようにしゃがんでプランターを眺め、水やりを終えて雫をまとう葉にそっと指を添えている。 「悪くない。病気にもなってねえみてえだし。大きくなってきた」 「そうか、良かったな。咲が毎日大切に育ててるお陰だ」 「別に……。せっかく植えたのに、枯れたらもったいねえだろ」 「うんうん、そうだな」 「なんだよ」 含むような相槌が気に掛かり、どことなく責めるように見つめるも、秀一といえば笑みを浮かべている。 「いいや、なんでも。それはそうと、次は何をつくるんだ? 本買ってきてただろ。お友達に選ぶの手伝ってもらったんだって?」 「颯太め……、言うなっつったのに」 「咲?」 「まだ考え中。何か……、枝豆食いてえって言われたけど」 「お、いいな! それいいじゃないか、俺も賛成」 「お前もつまみ目当てか?」 ばつが悪そうに打ち明ければ、隣からは嬉しそうな声が上がり、どうやら枝豆に更なる一票が入ってしまったらしい。まあ……、それもいいけどな……。 陽光に照らされ、水気を帯びた緑葉が生き生きと煌めき、苗を植えた日から今日まで順調に育っている。 いつの間にか生活の一部になり、当たり前のように今朝もこうして様子を見ては、日課の手入れに勤しんでいた。 「そうだなあ。晩酌が捗りそうだ」 「まだ分かんねえけどな。あんま期待すんなよ」 「そうと決まればビール買わなきゃいけないな!」 「なんでそうなる。アイツと同じこと言ってんじゃねえよ」 「アイツって?」 余計な事を言った、と気付いても後の祭であり、目の前では秀一が興味深そうにこちらを見つめている。 「さあな」 「ああ、お友達か。何だか気が合いそうだなあ。ぜひ紹介してくれないか?」 「いやだ」 「ふふ、大好きなんだなあ。お友達のこと」 「ちがうっつうの! 一人でも大変なのにお前らが揃ったらどうなるか」 「そうか。やっぱり気が合いそうだな。それで、枝豆は?」 立ち上がると、側でしゃがんでいた秀一に見上げられ、柔和な笑みと共に声を掛けられる。 彼らを引き合わせたらきっと、仲良くなれる。 それは嬉しい、でも、異なる一面を知られるようで何だか照れ臭い。 そんな事を考えながら、作業を終えて中へと戻ろうとしていたら、改めてリクエストを投げ掛けられる。 「考えとく」 そう言ってじょうろを手に取ると、片付けるべくその場を後にする。 考えとくって……、もう殆ど決まったようなもんだよな。 【END】

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