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「……クソッ、調子狂うな……」
見覚えのない風景だったけれど、構わず前を進んでいる身としては、どんな景色だろうと関係がない。
歩きながらつい今しがた出てきた家が思い浮かび、鍵を閉めていないことにふと気が付く。
そんなもん、鍵なんて持ってねえんだから閉めてこれるわけねえだろが。
……なんで俺が人んちの防犯事情を気にしてなきゃなんねえんだ。
「……ったく、何処だっつんだよココは……」
長く立ち並ぶ閑静な住宅街、右も左も分からなかったが歩けば何処かへ出るはずだと思い、文句を洩らしつつも足を止めない。
「……チクショウ、認めねえぞ。あんな野郎にぶっ倒されたなんて……」
沸々と募り始める苛立ちの中、視線の先に小さく見えてきた公園、何を思うでもなく自然とそこへ向かっていた。
「……ん?」
平日の午前、当然のことながら静けさに支配されていた公園内。
しかしその中で、ブランコに誰かが腰掛けていることに気付き、ゆっくりと距離を狭めながら目を凝らす。
「お前……」
引き摺る様にザッと音を立てて歩き、それに気づいた相手が顔を上げ視線を向けた。
瞬間、その顔が驚きに彩られたのは言うまでもない。
「……学校行ったんじゃねえのか、お前」
制服に一度視線を向け、また相手の顔へと戻る。
「んだよ。そのナリで真面目に学校行けとでも言うつもりか?」
「……別になに言う気もねえよ」
ムッとした表情をして、桐也と名乗っていた男は唇を開く。
次いで言葉を紡げばそれきり何も言わなくなり、その場はまた静まり返る。
「アンタさ、名前なんつうの」
「……」
「んだよ、人に言えないような恥ずかしい名前なのか?」
「……るせえな。……咲だ。文句あったらブチ殺す」
「なんだ面白くねえ」
「……ふん、悪かったな」
吐き捨てるように遅い自己紹介を終え、空いていたブランコへ腰を下ろす。
ブランコで無邪気に遊び始めることはないだろう2人、快晴な空の下で何をするでもなく一緒に時を過ごし、端から見るとなんとも異様な光景だろうと思う。
「……お前の親父、やべえぞ」
「やべえのは昔からだ、気にすんな」
「……」
家の中を彷徨っていた時よりかは幾らか落ち着きを取り戻し、身内である桐也へ向けストレートな印象を投げつける。
しかし、かなり失礼なことを言ったにもかかわらず返ってきたのは意外な言葉で、あの家の中では一番考えがまともそうかもしれないと内心で勝手に思う。
「で、どーすんだよ」
「あ?」
くるりと体ごと向きを変え、こちらへと視線を注ぎながら問い掛けてくる。
突然のことに、何を聞かれてるのかも分からない。
「事情はもう昨日のうちに聞いてる。結婚すんのか?」
「……あァ? ……なんか今、言ったか?」
「言った。結婚すんの?」
「……」
事情ってなんだよ、知らねえところでなに勝手に話進めてやがる……!!
文句はとめどなく湧き上がるが、それにしてもそんなことを唐突に聞かれても一体どうしたらいいのか、脳により一層の混乱を来たすだけだった。
「まあな、ちょっと変だしやべえけど……悪い奴じゃねえから」
「んだよそれ……! なに納得してんだ! どう考えてもオカシイだろが!」
「どうせ家にいてもいなくてもどうだっていい存在なんだろ? 捜索届けも出さねえってこんな親不孝者」
「……悪かったなっ!」
元からなのかなんなのか、桐也という男は痛烈な言葉を浴びせ掛けるタイプらしい。
同じような類の奴に言われると、倍腹立つのは何故だろう。
「……ったく、ワケ分かんねえ! 付き合ってられっか……! あ、お前んち鍵開いてっぞ」
「はあァッ!? なに平然と言ってんだよ! 閉めて出て来いや!!」
「なんで俺がそんなことしなきゃなんねえんだ」
「鍵預かったんだろ!? そうじゃなくてもお前! 家にあっただろが!!」
「んなこと俺が知るか!! 気になんならテメエで閉めてくりゃいいだろが!!」
バッと勢い良く立ち上がったかと思えば、荒々しい口調と共に何故か説教をされる。
「戻るぞ!!」
「あァッ!? っんで俺まで行かなきゃなんねんだよ!」
「嫁だろが!!」
「テメエこそ平然とオカシイこと言ってんじゃねえ!!」
なんなんだクソッ……! さっきからワケ分かんねえっ!!
とりあえず、この有無を言わさぬ展開をどうにかして欲しい。
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