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「……美味い!! 料理も上手いなんてもう……! あまりの美味しさと幸せに涙が出てくるなあ!」 「……」 目の前で繰り広げられている展開など、全く望んではいなかった。 気付かれぬようそっと視線を向ければ、本当に美味しそうに箸を進める秀一の姿が目に入る。 「すげえ意外だけど……美味い」 「俺らに悪いと思ってこんな美味しいもん作ってくれたなんて!! ったくもう咲ちゃんてば可愛い奴~!」 「……んなこと別に思っちゃいねえよ」 同じく箸を進めながら、それぞれの素直な気持ちが唇から零れ落ちてくる。 「だろう? と言うわけで、これから息子ともども宜しくお願いします」 「なっ! 馬鹿かお前……!!」 だからなんでそうなんだよ……! もうどうしたらいいのか分からず混乱を深めるばかりで、いい策など何一つとして思いつく気がしない。 複雑な心境に駆られパニック状態、箸を握り締めながら黙り込んでしまった姿を見て、隣に座っていた颯太が顔を覗き込んでくる。 「咲ちゃん。俺ね、咲ちゃんのこと好きだからいて欲しい」 「……颯太」 迷いのない眼差しに絡め取られ、唇から滑り落ちた声はどこかか細い。 何故こんなにも颯太に対し態度を弱まらせてしまうのか、それはなにか懐かしい記憶を呼び戻すようだった。 「おっ? 父が先に言われて落ち込んでいます」 「バ~カ親父」 向かい側で繰り広げられている暢気な会話は放っておき、どうしてこんなにも颯太には甘くなってしまうのかを考えていた。 「俺、料理とかだって手伝うし。咲ちゃんに任せっきりなんてことしないから」 真っ直ぐな瞳は、この身を捕らえ決して離そうとしない。 純粋に自分が必要とされていることに、不覚にも打たれていく心。 懐かしい、何処かで。 浮かび上がる姿は幼い弟、いつでも後をついて離れなかった。 いつからだろう、背を向け別の道を歩いていくようになったのは。 こんな兄貴を持ったこと、嫌で仕方ねえだろ? 消えてなくなればいいって、きっと…… 「さ、咲ちゃん……?」 「……?」 気が付けば場はしんと静まり返っていて、瞳に映される表情は一様に驚きで彩られている。 全ての視線はこちらに向けられていて、一体なにが起きているのか状況を把握することに苦しむ。 「どうしたの? なにか悲しいこと……あった?」 「なに言って……」 言葉の意味が、全く理解出来ない。 「泣いてんぞ、お前」 「……え?」 桐也の言葉に、そっと指先を自分の頬に這わせた。 「!!?」 瞬間、ハッとする。 なんで涙なんか……! しかもこんな奴らの前で……、なにがどうなってんだ……! 「なっ……」 ふらつく身体をその場に立ち上がらせ、考えるより早く動いていた足。 「ええっ!! 一体どうしたっつ~んだよ!?」 瑛介の慌てた言葉、その後のやり取り、全ては耳を通り過ぎるだけで、頭の中には何も残らなかった。

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