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「っ……、ん……」
一時の欲に身を任せてしまえば、解放され楽になると同時に全てが終わりを告げるだろう。
そうならない為には一体どうしたらいいのか、次へと集う熱から逃れる方法を見つけることが出来ない。
「……、楽しいか……? こ、の……変態ヤロォ……んっ」
「は? 変態はココに、テメエ1人だっつの」
苦し紛れに紡がれた言葉、危機を突破出来るような効果は当然のことながらもたらされない。
挑発的な物言いも一人舞台、軽く流されてしまうだけで行為は尚も続いていく。
拒絶する気持ちとは裏腹に、身体はとうに屈してしまっている。
理性を放り、果ててしまえたらどんなに楽で気持ちがいいだろうと囁きかけるけれど、こんな者達の手に落ちてしまうことが死ぬ程までに耐えられない。
「生意気なこと言ってる割に、すげえコレ……固くしてんじゃん?」
「んっ……!」
それなのに肉体は、更なる快感を求め熱く高ぶらせている。
外気に晒された自身は、誰の目にも明らかな熱を持っていて、溜まる欲を解き放つ瞬間を今か今かと待ちわびていた。
先走りをねっとりと指に絡め、表面へと添えられる指先。
認めたくはない、けれど押し寄せる快楽から目を背け続けることが出来ない。
こんな野郎に……!
「……るせえんだよ……お前……。ん、はっ……、テメエこそ……野郎好きの、変態じゃねえか……」
身体中を熱が迸り、支えを失えばその場に力なく崩れ落ちてしまいそうだ。
ここまでくると自分でももうどうしたいのか分からず、やせ我慢なのか開き直りでもしたのか、何故か煽るようなことを言ってしまう。
どうせこのままいっちまえば、屈辱にも野郎に掘られる運命なんてのが待ち受けているんだろう。
だったらなあ……せめて、少しでもこの掌で回してやろうじゃねえか。
「は、あっ……、お前だってなんだかんだ言って……、分かってないとでも思ってんのか……?」
あらゆる方面から注がれていた視線が、熱を帯びていく。
「ん、……は、ぁっ。お、れ以上に……きてんじゃ、ねえのか、よ……ぁっ、ん……ん」
洩れ出る吐息に邪魔をされ言葉が途切れ途切れなものになってしまったけれど、艶のある甘い声に周り全ての意識が劇的に変化を遂げる。
「……確かに、結構いいかもしんねえな。つうわけでまあとりあえず……、やりてえようにやらせてもらうぜ」
「……」
先陣をきっていた男の言葉に、同意見らしい周りは何も言わずただ一歩前へと踏み入れる。
……ちょっと待て。
どんどん取り返しのつかない方向へ向かっているのは気のせいか……?
「……っに言ってんだテメエ、冗談じゃねえぞ……!」
「うるせえな。エロい声ばっか出してるお前がわりーんだろが」
すでに目的を忘れている集団、自らの欲を吐き出す行為しか今は見えていないらしい。
限界へ達するまで後一歩のところだというのに、ここで更に追い討ちでもかけられてしまった日には、気の済むまで良いようにされるという絶望的な結末が待ち構えている。
こうなってしまえばもう、性別など一欠けらの躊躇にもなりはしない。
「正気かお前ら……! んなことがあっていいわけっ……、テメッ……! どこに手ぇ入れて……!」
こんな連中にやられてたまるか……!
例え掌でいいようにまわせたとしても、矢張り嫌なものは嫌だという本音。
これだったら殴られてたほうがどれだけマシか、それかまだあの家で飯作ってたほうが……なんで、そんなこと思うんだよ。
「咲……!!」
「……?」
にじり寄る姿、無数の手が身体へ触れるまで後一歩というところで、何処からともなく聞こえてきた声が動きを止める。
出所を探り視線を巡らせば、暗闇の中微かに見えた人影。
「ぁんだよお前ー」
場を包囲していた者達の視線も、ただ一点へと向けられる。
「……随分、楽しそうじゃないか」
「……な、んで……お前が……」
ゆっくりと歩み、距離を狭めてくる秀一に戸惑いを隠せない。
追ってきたとでもいうのか、この俺を……
しかしその割には、来るのが遅い。
「テメエッ……! 来んのおせえんだよ! いつまでかかってんだコラァッ!!」
「すまん!! ちょっと暗くて迷った!!」
「バカかテメエはァッ!!」
息を荒げつつも、どこかで納得してしまう自分に苛立つ。
両手をパンッ! と顔の前で合わせ、場の空気もお構いなしに謝罪を述べる秀一。
別に……、追い掛けてくれなんて頼んだわけじゃねえんだし、謝る必要なんて……どこにもねえのに。
あのまま放っておけば、自然と終わっていたはずの関係。
切り離すことをせず、此処まで追い掛けてきたのは何故だろう。
「……それで、寄ってたかってこれから……一体どうするつもりだったのかな?」
相変わらずの穏やかな口調で、秀一は真っ直ぐに歩みを進めてくる。
夜目はそうきかない為表情はよく分からなかったが、笑っているだろう予感は恐らく的中しているはず。
「なにしてようがアンタには関係ねえじゃん」
「いやあ、それが関係あるんだなあ。今なら半殺しで許してあげるから、うちの咲を返してくれないかな?」
やがて目の前までやって来た秀一は足を止め、柔らかな口調のままさらりと何か物騒なことを言う。
それと同時に聞き捨てならないこと、テメエなに勝手なこと言ってんだコラ。
つうかうちの咲ってなんだよ。
誰がいつテメエのもんに……、息子じゃねえぞ俺は。
いや、この場合……嫁か?
……今のナシな。
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