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「そ、それよりも……」
「ぁん?」
「目のやり場に、困るんだよな」
「……は?」
一点へと向けられた視線の先を辿り、やがて行き着いた瞳に飛び込んできたものとは。
「!! テ、テメエッ……!! どこ見てんだコラァッ!!!」
焦りを筆頭に様々な感情が湧き上がり、頭で考えるよりも早く飛び出していた拳が、秀一の腹部へと綺麗に決まる。
「っ……! い……てえぇ……」
いい所に入ったらしく、痛みを訴えながら顔を俯かせる。
せいぜい悶えてろ。
「……ソレ、喜んで俺が手伝うよ? これでめでたく結婚するわけだし、ね?」
「あァッ!? っに勝手なこと言ってんだテメエ! いつ決まったそんな事……!」
「あははっ。まあとりあえず、皆心配してるし。……帰ろうか」
未だに晒されていた自身をしまい込み、目の前で笑う秀一に先程の雰囲気は微塵も感じられなかった。
差し出された手、けれどその掌を黙って見ていることしか出来ない。
「しっかし派手にやられたなあ。早く手当てしないと……綺麗な顔が台無しだ」
「……うるせえな」
調子が、狂う。
なんだかんだと悪態をつきつつも、また戻ろうと考えてしまう自分がいる。
優しさに包まれたその手を握ろうと、頭のどこかで考えては望んでいる。
「咲……、帰ろう」
柔らかく笑む姿に、心が支配される。
「……」
これは、違う……。
ほんの気紛れで、都合の良い宿代わりに使って、飽きたらまた抜け出してやる。
戻るんじゃねえ、利用するだけだ。
どうして俺は、自分にこんなにも言い訳をする……?
「さ、行こうか」
躊躇いがちにも触れた手は、頑丈に覆い尽くされた氷をも溶かしてしまう程に、温かく心を落ち着かせるものだった。
そして次にはもう、足並みを揃え歩を進めていく。
その気持ちは決して、否定的なものではなかった。
《END》
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