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1.ZERO℃ギミック【2】
「咲、寝ないの?」
「……るせえ、どうしようが俺の勝手だろが」
ソファに寝転びながら小さく欠伸をしつつ、適当にチャンネルを合わせていた番組からは、賑やかな声が発され続けている。
特に興味も無かったけれど向けていた瞳、そんな中で背後から聞こえてきた声は、穏やかなものだった。
けれど掛けられた言葉に視線は投げず、変わらずの無愛想な反応を示す。
夜も更け外は闇景色、3人はとうにそれぞれの部屋へと戻り、思い思いに過ごすか眠りに落ちているのだろう。
「そろそろ部屋、行こうか」
「あ? っんでそうなんだよ」
「だって、もう眠いだろ?」
ただ視線を向けていただけのテレビ、内容なんて当然頭に入るはずもない。
続けられた秀一の言葉に拒否の意思を示すものの、向こうは向こうでどうやら退くつもりはないようだ。
「なら……、別にココで寝るからいい」
「そんなの、駄目に決まってるだろ? 風邪ひくよ」
何処か不貞腐れたように呟きながら、この場から動くつもりがないことを伝える。
けれど相手が相手なだけに、「はい、そうですか」と容易く引き下がってくれることはまずない。
「るせえな、俺が何処で寝ようが勝手だろが」
未だに視線を合わせぬまま、此処からは動くつもりがないことを再度告げる。
「そういうわけにはいかないなあ。ほらほら咲、早く早く」
先に行動を起こしてきたのは秀一、上から顔を覗き込んできた視線と初めて瞳が合う。
るせえな、だから行かねえっつってんだろが。
大体……
「っんで俺がお前と一緒の部屋で寝なきゃなんねんだよ!!」
「だって夫婦だし」
「当たり前のように言ってんじゃねえ!!」
ここでガバりと上半身を起こし、背凭れを挟み立っている存在を見上げつつ、鋭く睨むことも忘れない。
……まあな、元から目つきいいほうでもねえんだけど。
「こんな所で寝たら本当に風邪引くよ? だからほら、上に行こう?」
「だからっ……! 行かねえっつってんだろが! 俺のことなんかほっといてテメエはテメエでとっとと寝やがれ!!」
「しっ~……、静かにしないと」
「~~っ!」
どう考えたってオカシイじゃねえか。
なんでこの俺が、こんな野郎と一緒の部屋で過ごさなきゃならねえんだ。
オカシイだろが、拒否んだろうが。
「どうしても部屋には行きたくない?」
「……ったりめえだろ」
頑なに拒否し続ける姿を前に、秀一は困ったように笑みを浮かべながらも、穏やかに言葉を並べていく。
膝立ちへと体勢を変え、ソファの背もたれに肘を置き、頬杖をつき始めた秀一と同じ目線になる。
「仕方ないなあ」
「ぁんだよっ……」
真っ直ぐ注がれる視線から逃れるように、顔を俯かせながらも微かに声を洩らす。
鼓膜を揺さぶる低音は何か企みを含んでいるかの様に聞こえたが、思考を巡らせたところで意図など読めるはずがなかった。
「よっと」
「!?」
かと思えば即行動、次にはもう背凭れを勢い良く飛び越え、隣へと陣取っていた。
俺に若さなんかアピールしたところでどうにもなんねえぞ。
突然の出来事に内心動揺していたものの、外見は変わらず平静を装っている。
「なんだよ鬱陶しいな。とっとと寝ろっつってんだろが……明日も早ぇんだから」
「大丈夫。咲が起こしてくれるしな」
「あァ? っんで俺が……! っんな義理はねえ」
傍らにて腰を落ち着けたかと思えば、柔らかな笑みを浮かべながら視線を向けてくる。
見過ぎなんだよテメエッ……、居心地悪ィな。
大体、起こす気なんか更々ねえし何をする気もねえ。
けど、この家の奴等があまりにもだらしねえから……気付いたらつい、だな……。
いちおう住まわしてもらってる身だし……、別こんくらいしてもな……。
……またなに言い訳してんだ俺は。
「じゃあ俺も、此処にいるから」
「……はあ?」
なにを言ってんだコイツは。
呆れた返事をしてしまう気持ちも分かるだろう。
変わらずニコりと笑みを刻みながら放たれた言葉に、まともに取り合うことが馬鹿らしく思えてくる。
「っんでそうなんだよ。部屋行きゃいいじゃねえか」
「それじゃ寂しいだろ? 咲が」
「あァッ!?」
そして紡がれた言葉に、目を丸くし暫くは衝撃を受けているしかない。
今なにを言いやがったテメエは……。
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