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「まあ正直、場所なんて何処だって構わないしな」 「……ぁ? なんの話だ」 視線だけは時折向けていた番組も知らぬ間に終わっていて、何故か居間にて秀一と二人きりソファへ腰掛けている今。 穏やかな瞳に見つめられ、視線をまともに合わせてなどいられなかった。 「またまた、とぼけちゃって」 「あ? ……なっ! テメエ何してやがる!!」 目の前で笑みを湛え続ける男、これまで己を取り巻いていた視線や何かとは全く違い、悪意の無さに心は動揺していくばかりだった。 「しっ。大きな声出すと、バレちゃうよ?」 「な、……っにが! ふざけんなテメエッ……!」 互いの距離が近付くにつれ怪しさを増していく雲行き、気付けば身に付けていた服の中へするりと指先が滑り込んでくる。 なっ……、テメエ一体どういうつもりだ……! 「……嫌か?」 「そ、れ以前にっ……有り得、ねえだろっ……」 「どうして?」 間近に迫る瞳から逃れようと顔を俯かせながら、問い掛けられた言葉に曖昧な反応を示してしまう。 どうして嫌だと、はっきり言えない……? 「おいっ……手、いい加減どけろっ……」 「咲」 「んっ……呼、ぶな……」 拒絶して振り払うことも出来ず、肌に触れてくる手から甘い痺れがじわりと伝わってくるのが分かる。 このままじゃ流されちまう、それは俺にとってあってはならないことだった。 「あの時、咲に出逢えて良かった」 「知、るかよっ……そんなことっ……」 肌を滑る秀一の指先が温かい、その温もりに縋りついてしまいそうになる。 孤独が嫌だなんて思わない、俺には一番お似合いだと思っていたから。 だから、ずっとそうやってきたからこそ俺には……… 「ずっと、側にいてほしい」 「……!」 ──見るな。 そんな目で見るな……! 迷いのない真っ直ぐな瞳、囚われた視線は逸らすことも出来ずに言葉を失わせる。 ホントにお前は……俺を、必要だと思ってくれてんのか……? ダメだ……! 余計なこと考えてんじゃねえ!! 流されんな……!! 「俺の側に……いや、この場合は俺たちのほうがいいのかな?」 「……んなこと聞くなよ」 真面目な口調で話をしていたかと思えば、雰囲気など関係なくにこやかに問い掛けてくる。 お前だろうがお前らだろうが、そんなこと俺が知るか! 「咲」 「なっ……んだよっ」 ふいとようやく視線から逃れたものの、流されるままに何故か大人しくソファへ押し倒されてしまう。 「……俺に、心を開くのが怖いか?」 「……!」 決して瞳を合わそうとせず遠くへ視線を向けていれば、静かに紡がれた言葉を聞いてハッとする。 「別に……、俺はっ……」 「ん……?」 穏やかで心地良い声が、安息から遠ざけていた心を落ち着かせようとする。 ……なんでだ、有り得ねえだろ……。 どうだって良かったはずじゃねえか、こんな奴等……! 「咲……」 ゆっくりと近付いてきた唇に、何故か一切の抵抗が出来ない。 「ん……」 気付けば互いの唇が触れ合って、薄く開いていた口内へと秀一の舌が──。 「咲ちゃ~ん」 ドカァッッドタバタバッタン!! 舌先が入ってきたことを感じた瞬間、躊躇いもなく開かれた扉からは突然颯太が現れた。 背凭れのお陰でこの異様な光景を見られることはなかったが、冷静でいられる程の余裕は勿論無かった。 「二人とも何やってんの?」 容赦なく秀一の腹部を蹴ってソファから突き落とし、手近にあったクッションを咄嗟に己の顔面へと押し当てていた。 そんなある意味で異様な光景を前にして、不思議そうな声が頭上からかけられるが無理もない。 「い、てててっ……」 「父さん大丈夫? 咲ちゃん? それ、一体何やってんの?」 秀一の情けない声を耳に入れながら、質問の矛先が自分へと向けられる。 何やってって、……俺だって知るかよ。 「……、窒息死ごっこ」 そして言った側から大後悔。 俺は馬鹿か。 「へえ~、大変そうな遊びだね」 「……」 てオイ、真に受けてんじゃねえよ。

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