17 / 132

3

「颯太、どうした? なんか話があったんじゃないのか?」 何度か腹部をさすりつつ、身体を起き上がらせた秀一から紡がれた言葉を聞き、暫しの間を空け颯太は「あっ」と呟き何かを思い出したらしく、視線を問い掛けの主へと向ける。 「明日、祭があるらしいんだ」 「祭?」 手にしていたクッションを傍らへ置き、2人の会話に耳を傾ける。 祭か。もう何年行ってねえかな、そんなもん。 「あーあー! あそこの神社のな! そうかあ、もうそんな時期か」 「うん。そう」 ふと蘇りそうになった遠い昔の記憶を拒絶し、話を続ける2人へ悟られぬよう視線を時折向ける。 「俺、皆で行きたいんだけど」 「ああ。それいいな!」 夜も遅く、パジャマを着ていた颯太。 立ち上がり目の前まで足を進めた秀一と比べると、まだだいぶ小さく華奢に思える姿だった。 「明日、早く帰って来れそう?」 「ん? 大丈夫。絶対早く帰るよ」 不安そうに問い掛ける颯太に、フッと優しく微笑みながら頭を撫でる。 人を落ち着かせる声、言葉通りの現実へと導かせる強さ。 そんな見えはしないけれどある、力を何処か感じてしまう。 「……んだよ」 と、ここで2人の視線がほぼ同時に向けられ、突然のことに少し動揺する。 打ち合わせしたみてえに見てきやがって、別に俺はなんも言ってねえだろが。 「もちろん、咲ちゃんも一緒だよ」 「咲と祭に行けるなんて夢みたいだ! 楽しみだなあ~! 楽しみ過ぎてもう、明日は仕事なんか手につかないなあ~きっと!」 「あァッ!? ちょ、待て……! なに言ってんだお前等ッ!!」 注がれる視線に嫌な気配を感じつつ、暫くは何を言うでもなく瞳を合わせていればこの展開。 有り得ない言葉を受け、この時ばかりは戸惑いの表情を浮かべてしまっていた。 なんでこの俺が、お前らなんかとそんなもんに行かなきゃなんねえんだっ!! 「テメエらで勝手に行きゃいいだろが! 俺はぜってえっ……!」 「すっごい楽しみだね父さん!!」 「祭なんて久し振りだもんなあ! よーし! 金魚すくっちゃうぞー!」 「父さんカッコいい!」 「お、お前等アァッ~~!!」 俺の話を聞きやがれ……!!!

ともだちにシェアしよう!