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「颯太、どうした? なんか話があったんじゃないのか?」
何度か腹部をさすりつつ、身体を起き上がらせた秀一から紡がれた言葉を聞き、暫しの間を空け颯太は「あっ」と呟き何かを思い出したらしく、視線を問い掛けの主へと向ける。
「明日、祭があるらしいんだ」
「祭?」
手にしていたクッションを傍らへ置き、2人の会話に耳を傾ける。
祭か。もう何年行ってねえかな、そんなもん。
「あーあー! あそこの神社のな! そうかあ、もうそんな時期か」
「うん。そう」
ふと蘇りそうになった遠い昔の記憶を拒絶し、話を続ける2人へ悟られぬよう視線を時折向ける。
「俺、皆で行きたいんだけど」
「ああ。それいいな!」
夜も遅く、パジャマを着ていた颯太。
立ち上がり目の前まで足を進めた秀一と比べると、まだだいぶ小さく華奢に思える姿だった。
「明日、早く帰って来れそう?」
「ん? 大丈夫。絶対早く帰るよ」
不安そうに問い掛ける颯太に、フッと優しく微笑みながら頭を撫でる。
人を落ち着かせる声、言葉通りの現実へと導かせる強さ。
そんな見えはしないけれどある、力を何処か感じてしまう。
「……んだよ」
と、ここで2人の視線がほぼ同時に向けられ、突然のことに少し動揺する。
打ち合わせしたみてえに見てきやがって、別に俺はなんも言ってねえだろが。
「もちろん、咲ちゃんも一緒だよ」
「咲と祭に行けるなんて夢みたいだ! 楽しみだなあ~! 楽しみ過ぎてもう、明日は仕事なんか手につかないなあ~きっと!」
「あァッ!? ちょ、待て……! なに言ってんだお前等ッ!!」
注がれる視線に嫌な気配を感じつつ、暫くは何を言うでもなく瞳を合わせていればこの展開。
有り得ない言葉を受け、この時ばかりは戸惑いの表情を浮かべてしまっていた。
なんでこの俺が、お前らなんかとそんなもんに行かなきゃなんねえんだっ!!
「テメエらで勝手に行きゃいいだろが! 俺はぜってえっ……!」
「すっごい楽しみだね父さん!!」
「祭なんて久し振りだもんなあ! よーし! 金魚すくっちゃうぞー!」
「父さんカッコいい!」
「お、お前等アァッ~~!!」
俺の話を聞きやがれ……!!!
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