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「ん? どうした?」
「……っなんでもねえよ」
過去の記憶に浸っていただなんて言えるわけもなく、無愛想に言葉を紡ぐと人の通りへ足を向ける。
「咲」
「……ぁんだよ」
思い出したくない、その記憶とは向き合いたくない。
過去の一切から視線を逸らしたい、ずっと奥底に隠し続けていたい。
思い出したくもない眩しい記憶たちを必死に振り払えば、またも声が掛かってしまい、面倒臭そうに振り返る。
「ほら、咲の分」
「……」
差し出された透明なビニール、中では多くの金魚が身を泳がせていた。
その数を改めて知ってしまい、暫くは視線を逸らせず身を固まらせてしまう。
「……そっち貸せ」
「え? こっちは俺のだけど」
「いーから! 貸せっつったら貸せ!!」
ふっと向けた視線の先では、秀一の戦利品である幾匹かの金魚が映り込んでくる。
優雅に漂う数の少ないほうを無理やりに奪い取り、自らが掬い上げた多くの金魚たちを押し付けていた。
あんなもん持って歩けるかっ……。
「ぷっ。ははっ……!」
「なっ! テメッ……! なにが可笑しいっ!!」
3、4匹が泳ぐ金魚を一目見てから、どちらの方向へ足を進ませるか迷っていた。
そうすれば今度は、吹き出して大笑いする声が耳に入ってきて、こめかみがピクりと反応を示す。
他の誰かであって欲しいとは思ったが、確実に笑い声の主は見知った者であった。
そして何に対して笑っているのか、……その対象はきっと、俺なんだろう。
「テメエッ……、いつまで笑ってんだ!!」
「はははっ!! ごめんごめっ……くくっ、咲が可愛いことするからっ……ははっ!」
「だからテメエなあっ……!!」
胸倉を掴んだまではいいものの、全く収まる気配の無いことに苛立ちは募る一方だった。
クソッ……!
俺がなにしたって言うんだあの野郎……!
いつまでも笑ってんじゃねえ!!
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