21 / 132

7

「ん? どうした?」 「……っなんでもねえよ」 過去の記憶に浸っていただなんて言えるわけもなく、無愛想に言葉を紡ぐと人の通りへ足を向ける。 「咲」 「……ぁんだよ」 思い出したくない、その記憶とは向き合いたくない。 過去の一切から視線を逸らしたい、ずっと奥底に隠し続けていたい。 思い出したくもない眩しい記憶たちを必死に振り払えば、またも声が掛かってしまい、面倒臭そうに振り返る。 「ほら、咲の分」 「……」 差し出された透明なビニール、中では多くの金魚が身を泳がせていた。 その数を改めて知ってしまい、暫くは視線を逸らせず身を固まらせてしまう。 「……そっち貸せ」 「え? こっちは俺のだけど」 「いーから! 貸せっつったら貸せ!!」 ふっと向けた視線の先では、秀一の戦利品である幾匹かの金魚が映り込んでくる。 優雅に漂う数の少ないほうを無理やりに奪い取り、自らが掬い上げた多くの金魚たちを押し付けていた。 あんなもん持って歩けるかっ……。 「ぷっ。ははっ……!」 「なっ! テメッ……! なにが可笑しいっ!!」 3、4匹が泳ぐ金魚を一目見てから、どちらの方向へ足を進ませるか迷っていた。 そうすれば今度は、吹き出して大笑いする声が耳に入ってきて、こめかみがピクりと反応を示す。 他の誰かであって欲しいとは思ったが、確実に笑い声の主は見知った者であった。 そして何に対して笑っているのか、……その対象はきっと、俺なんだろう。 「テメエッ……、いつまで笑ってんだ!!」 「はははっ!! ごめんごめっ……くくっ、咲が可愛いことするからっ……ははっ!」 「だからテメエなあっ……!!」 胸倉を掴んだまではいいものの、全く収まる気配の無いことに苛立ちは募る一方だった。 クソッ……! 俺がなにしたって言うんだあの野郎……! いつまでも笑ってんじゃねえ!!

ともだちにシェアしよう!