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「さ~き、まだ怒ってる?」
「あァ? ……別に怒ってねえよ。つうかはなからテメエなんか無視だ」
そろそろ3人と合流するべく、来た道を戻りながら姿を探していた中で、秀一が申し訳なさそうに笑いかけてくる。
これでもかという程に大笑いを御披露していた秀一、耐えられるはずもなく御自慢の蹴りを繰り出して、その場から1人歩き出していた。
そしてその姿を目にした秀一が慌てて追い掛けてきて、今のこの状態に落ち着いている。
「でもホント可愛かっ……」
「テメエ……、それ以上ふざけたこと言ってみろ。……次はねえぞ?」
互いの手からは、明らかに数の差がある金魚たちが水の中を漂っている。
様々な出店が立ち並び、食欲をそそるいい匂いが何処からともなく流れてきては、鼻腔をくすぐり去っていく。
つい先程の出来事を思い出し、また嬉しそうに笑みを見せながら話を始めた秀一へ、眼孔鋭く黙らせる。
いい加減しつけえな。
折れる位までブチ込んでおくべきだったか。
「肝に銘じておきます……!」
「ふん」
愉快げに紡がれていた言葉を途中で呑み込み、途端に聞き分けのいい人物へと変身する。
それを合図に視線を前へと戻し、行き交う人の群れに同化していく。
あの3馬鹿は、今頃どこで何をやってんだか。
「さーて。この人混みの中、見つかるかな?」
「……無理だろ」
「はははっ。だよなあ」
秀一が携帯を鳴らすが誰も出ず、結局は地道に探していかなければならないようだ。
捜索する前から気持ちを占拠している諦め、半ばどうでも良くただ歩いていくだけだった。
「まあな。ほっといても勝手に帰ってくるだろうし。合流出来たらいいやくらいで」
心配でもするかと思いきや、暢気な言葉が鼓膜を揺さぶってくる。
次から次へと群集を潜り抜けながら、その頃にはもう、ピアスの男のことなどすっかり忘れ去っていた。
「ああ! 焼きとうもろこし! 美味そうだなあ」
「いちいちうるせえ奴だなお前は……」
香ばしい薫りに食欲をそそられ、ご機嫌に話し掛けてくる。
食いたきゃ勝手に食え、とは思いつつ目も合わせられない身としては、そっぽを向いているしかない。
「でもなあ~……、ここはかき氷から攻めるべきだろうか……」
「ガキかテメエは」
そうしている間にも目移りを繰り返し、真剣に思い悩む秀一の姿がそこにはあった。
呆れて吐き出されていく溜息、気付いたら紡いでいた言葉。
「て、いねえよ」
チラりと視線を向けて見れば、いつの間にか秀一の姿が忽然と消えていて。
一体何処行きやがった、と辺りの出店に視線を巡らせる。
「なんなんだアイツは……」
何処へ行方をくらましたのかと見渡せば、2人分のかき氷を受け取っている姿が瞳に飛び込んでくる。
振り向いた秀一と視線が合い、ニコりと穏やかに微笑みながら、こちらに向かいゆっくりと歩み出す。
「はい。イチゴにしたけど大丈夫?」
「……」
当たり前の様に差し出されたかき氷、サラサラと繊細な氷上に染み渡る、甘いイチゴ味のシロップ。
こんな時、一体どうしたらいいのか分からない。
暫くはただ見つめるだけで躊躇っていれば、秀一はクスりとまた優しげな笑みを刻み込む。
「咲。一緒に食べよう」
心地良い低音の声が、鼓膜をそっと撫でていく。
紡がれた言葉への答えはなかったけれど、かき氷を受け取ったことで伝わったと考えた。
~~~♪♪♪
「お。桐也たちかな?」
一連の行動を見て、さて食べようと秀一が、一口目を掬い上げようとしていた時のこと。
突然に鳴り出した携帯、ようやく着信に気付いたかと秀一は、とりあえずかき氷を一口含む。
……そんな場合じゃねえだろ。
「ごめん、咲。コレ……」
言葉が終わる前に、無言でかき氷を奪い取る。
未だ鳴り続ける携帯、取り出してようやく通話ボタンを押した。
「桐也か? おう、今何処いんの」
なんとはなしに空を見上げながら話し始める秀一、穏やかなその雰囲気は人を無条件に落ち着かせる。
「……え? なんだって?」
両手にかき氷というなかなかに情けない状態の中、なにを考えるでもなくぼんやりと立っていた。
瞬間、なにか良からぬ空気を纏い始めた口調に、つい視線を秀一へと向けてしまう。
「分かった……。今すぐそっち行くから、絶対そこ動くなよ」
酷く真面目な表情で言い終え、ピッ、と通話を切ってから一つ、軽く息を吐いた。
「ごめんな。持っててくれてありがと」
「別に……」
すぐに向けられた優しい視線、素っ気なく差し出されたかき氷を、秀一は微笑みながら受け取った。
「桐也たちの居場所が分かったから、今から行こっか」
「……。なんかあったのか」
少し間を空けて、迷いはあれど気になってしまい、秀一に向け問い掛ける。
電話をしていた時、ある切欠から一瞬にして笑顔が消えた。
なにを言われた……?
気になるのは、当然のことだった。
「ああ、颯太とはぐれたらしくてなあ~! ったく何処行っちゃったんだか」
ハハッ、と軽く笑い飛ばしながら、なんでもないことの様に言う。
「……」
一つ、理解した。
コイツは、嘘をつくのが下手だ。
笑って済むようなことならお前、なんでそんな焦ってんだよ。
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