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何処かへと消えた颯太を追って、再び祭の中に飛び込んでいく。 未だ活気溢れるこの場、誰もが皆楽しそうに笑顔を湛えている。 「咲、ありがとな」 「なんだよ……」 颯太の行方など見当もつかない、その辺りで水風船を手に歩いてでもいたら殴りつけてやるのに。 そうであればいいと込められる想い、視線を巡らせ足を進めていく。 そんな時に、隣を歩いていた秀一から紡がれた言葉を聞いて、眉を寄せながらも視線を向ける。 「一緒に来てもらえて嬉しかった。颯太のこと、想ってくれてるんだ……?」 「俺は……、別に……」 鋭い睨みに臆することはなく、嬉しそうに秀一は顔を綻ばせ、穏やかに語り掛けてくる。 そんなこと言われたって……、俺が知るか。 なんでこんな一緒になってアイツを捜し歩いてるかなんて、自分でもよく分かんねえのに……。 懐いて、無邪気に笑いかけてくるあの表情が、あの日のアイツとダブるから。 今ではもう過去の幻影、血の繋がりがありながら冷めきった関係。 アイツを憎むのは筋違い、全てを壊したのは俺だ。 俺、なんだ……。 「何処行ったんだろうな、颯太」 だからこそ、今度だけは───。 無数に瞬く星より下界、儚いまでに淡い想いが浮かんでは消える。 これは単なる、自己満足だ。 「まあきっと、そこらへんで焼きそばでも食べてるって」 すぐ側では秀一が、そうあって欲しいという願いを込めながら、なんでもないかのように平静を装う。 アイツ……、マジで何処行きやがった……。 途切れることのない人波を掻き分けながら、颯太の姿を視界に収めようとする。 「……」 辺りを見渡していきながら、似た影を追い求めていく。 アレも違う、似ても似つかない、視線を巡らしていきながら再び正面へと戻る。 「ッ……!」 そこに、存在していたのは。 これだけの人間が多く行き交いながらも、誰もがその一点を避けて通る。 真っ直ぐ瞳に映り込んできた姿、視線が合うや否や、男は口端を吊り上げた。 「あの野郎……!」 「咲っ!?」 冷たい笑みと共に突き出された中指に、瞬時に途切れていた線が一本に結ばれる。 颯太が忽然と消えた理由、あの男が絡んでいると見て間違いない。 人混みに紛れていった姿を見失わないよう、秀一の声すら耳に入らず駆け出していく。 すでにもう、周りなど見えなくなっていた。 野郎……! とっくに気付いてやがったのか……! 恐らく、来て間もなかったあの時点で。 「はあっ、はっ……」 普通に歩くだけでも困難だと言うのに、何処までも続く人波にはばかられてしまい、焦る気持ちは容易く苛立ちへとすり替わる。 半ば押し退けるようにして無理やり突き進み始めても、群がる人の中に上手く紛れ込んだ存在は、いとも簡単に姿を消していた。 告げる直感だけを頼りに走り、祭の賑わいからは逸れ、鬱蒼とした林の奥へと足を進めていく。 「チッ……、あの野郎何処行きやがったッ……」 生気溢れる世界が幻であったかのように、しんと静まり返る闇。 冷めた空気が辺りを漂い、肌を通り過ぎていく。 仰ぎ見える月の輝きは淡く、その光も今は閉ざされてしまい、辺りは警戒するかのように息を潜めていた。 「咲ちゃん……?」 降り積もる枯れ葉の山を踏みしめながら、居るかどうかなど分からなかったけれど、とにかく前を目指し歩き続けた。 奴らは暗がりを好む、……俺もな。 それを考えたら、この場所以外に思い当たらなかった。 「!? おい、そこいんのか?」 しかしどうやら、読みに間違いはなかったらしい。 微かに鼓膜を震わせた声、足を止めて辺りに夜目をきかせながら唇を開く。 聞き間違いなわけがねえ、あの声はアイツしかいねえ。 「咲ちゃん! ダメだっ……! 逃げて!」 今度はハッキリと聞こえた声に確信し、その方向へと駆け出していく。 なんかしてやがったら許さねえッ……! 「久しぶり、咲ィ……」 「……!!」 視線を彷徨わせながら、颯太の姿を探していた。 注意が散漫としていた、スルりと肩にまわされた手に背筋がゾクりと騒ぐ。 「テメエッ……」 すぐ背後に佇む気配、それは間違いなく記憶に残る男と同一。 「元気そうだなァ? 最近全然顔見せてくんなくて寂しかったぜー? やっと見つけた」 ゴッッ 「くっ……!」 穏やかな口調とは反対に、髪を掴み無理矢理に振り向かせたかと思えば、容赦なく顔を殴られる。 「咲ちゃん!!」 悲痛な呼び声が、鼓膜を通り過ぎていく。 途方もない年月をかけて降り積もってきた枯れ葉の上へと、見事に身体を吹き飛ばされていた。 「ってぇ……」 落ちていた小枝に腕をひっかかれ、端々から生じる痛みに耐えながらゆっくりと立ち上がる。 口内に広がる血の味、手の甲で口端を拭いながら距離を置き、暗闇の先で佇む男を真っ直ぐに睨みつけた。 「アレー? 入っちゃった。俺ァてっきり、よけてくれるのかと思ったんだけど」 「……! テメエッ……、今更なんのつもりだ……」 唇を舐め、男は妖しく微笑を刻む。 「おいおい、もう終わったことみてえに言うなよ。あれだけ散々可愛がっといて、勝手にいなくなるだァ? そりゃあねーよ。なあ?」 「るせえ……、テメエらになんか興味ねえんだよ」

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