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17※
「な、に言っ……ん」
気になる言葉を耳にして、一体何を考えているのか分からないだけに疑問の声を上げかけたが、途中で唇により遮られてしまう。
「ん、ふ……っん」
絡み合う舌と、唇から漏れ出ていく音に煽られて、すでにどうにかなってしまいそうだった。
確かに浮かんでいたはずの疑問ですら、いとも簡単に思考の片隅からも完全に消え去ってしまい、その舌に応えることに夢中になってしまう。
「ハッ……、ん! ちょっ……な、に……ぁっ」
しかしそうやって陶酔してしまっていた間にも、物事はどんどんと突き進んでいく一方で、深く口内で触れ合っていた最中にその異変を察知したものの、防ぐには余りにも無力だった。
「や、めっ……、ぁっ……あっ」
前を開かされ、そこですでに主張し始めていた自身へ指を添えられ、緩く刺激を与えられる。
突然の行動に頭が混乱したのはもちろんで、反射的に触れていた手を掴んでしまったものの、結局のところどうにも出来ずに終わってしまう。
抵抗どころか、ジワジワと巻き起こる甘い痺れに敏感に反応してしまい、素直な唇が熱い吐息を繰り返していく。
「いいか? 咲」
「あっ……! ん、も……、お……か、しくなっ……ぁっ、や……め……っ」
こんな行為、こんな自分。
全てが有り得ないものだったはずなのに。
けれど現に今、こんなにも己を見失って目の前の男を頼りきっている。
自分と言う存在の内側までをも晒け出してしまった時、最後に迎えるであろう別れがずっと怖かった。
拒絶が怖い、突き放されるのが怖い、避けられるのが怖い、目を見てもらえないのが怖い、傷付くのが怖い。
独りが、好きだったんじゃない。
傷付きたくなかっただけ。
独りで居る内は、そんなことずっとないと思っていたから。
「おかしくでもなんでもなっちまえよ。今まで溜め込んできたもん全部、見せてみろ」
「あっ……、や……っ、い、や……だっ……、んっ、ぁ……っ」
縋り付いても、身体を許しても、心を許したはずでも。
まだ最後の最後のところで、足掻き隠し通そうとしてしまう。
その砦までもを壊されてしまったら、もう身を守る術も隠す術も無くなってしまうのだから。
「咲」
「あっ、よ……ぶ、なぁっ……た、のむ……っか、ら……ぁっ」
加速を増していくその手に、存在に翻弄されて、自身からは欲深い音と蜜が絶えず伝い落ちていく。
名を呼ばれる度に、必死になって守ろうとしていた理性が死んでいく。
なにもかも、滅んでいく。
「咲……」
「はっ、ぁっ……! あっ……や、だっ……やだっ……んっ」
子供みたいに泣いて、抑え込んでいたもの全て解き放ってしまえたらどんなに楽だろうなんて、苦しい胸中が悲鳴を上げる。
呼ばれる度に、長い時間突き刺さっていた棘が容易く抜け落ちていく様な錯覚を覚えて。
呼吸がしやすくなって、そこで見下ろしてくるその表情は穏やかで優しく安心してしまう。
「あっ、んっ……! も、ぁっ……」
「いいよ。全部、吐き出しちまえ。咲」
サラッと一撫で、髪を滑ったその指先があまりにも優しかったから。
「ん……っ、ハッ、ぁっ……」
頂点まで追い上げられ、いつから正常な思考が働いていないのかなんて、知るわけがない。
呼ばれてまた、破壊される。晒される。
ずっと隠してきた、俺と言う存在の核が。
「咲」
「は、あっ……!」
ぐっ、と込められた力が自身を扱き上げていき、たまらない感覚が背筋から全身を駆け抜け始めていく。
「あ、……っ!!」
──もう、ダメだ。
「は、あっ……ん、んっ……や、あぁっ……!」
独りが好きなフリをするのはもう、疲れた。
――俺、疲れた。
「はっ、はぁっ……」
絶頂を迎え、ゾクゾクと巡る甘い痺れの余韻に浸りながら荒く呼吸を繰り返す。
気恥ずかしくてまともに視線も合わせられず、瞳は彷徨い秀一を見る事なんて出来るはずもなかった。
「少しは、楽になったか?」
「っ……」
背もたれにずっと視線を向けて、途端に先程よりかは冷静になれてきた思考に戸惑いを覚えていく。
俺は一体なにやってんだとか、色々と一気に考え始めてしまい、すぐにもまた混乱し出してしまう。
「やっぱり……ここらでもう、やめとくか……?」
「え……?」
そんな時、優しく頬に手を添え投げ掛けられた言葉に、とっさに視線を秀一へ向けてしまっていた。
「ん?」
「……」
穏やかな視線が、声が、全てがすんなりと俺の中へ入ってくる。
「秀一ッ……!」
離れたくなんかねえ。
「咲……?」
そう思った瞬間には勢い良く起き上がり、目の前に居た秀一に抱きついていた。
すぐ側からは、驚いた様に名を呼ぶ声が耳に入ってくる。
「いいからっ……、やめなくて、いい……」
首筋に縋り付いて、遠慮がちに言葉を漏らす。
「ぁっ……ん! はっ……」
その言葉を合図に、再び行動を起こしてきた秀一の指先が、秘部へとゆっくり入ってくる。
微かに感じた痛みに眉を寄せるものの、白濁を纏わせていたその指は、慎重に確実に内部へと進んでいく。
「ん……っ、は、あっ……」
徐々にではあるが、痛みと共に生まれてくる別の感覚、内側を刺激しながら奥へと向かっていくその存在に、腰が抜けてしまいそうになる。
自分の中に、いつも見慣れていたはずのあの指が入って動いてるなんて、考えただけで火を噴く位に恥ずかしくなってしまうものの、内側を擦られる度に身体が跳ねて敏感に感じてしまう自分がいるのも事実だった。
「あっ、ぁっ……はっ」
「もう、こんなにしたのか……?」
身体はいつだって正直だから、俺の心なんかよりずっと素直で、注がれる甘さに応えていってしまう。
「あっ! ち、が……あっ、んっ……」
自分の中で変わり始めてきたなにかに、また過敏に反応を示した自身が主張を示していく。
羞恥を煽られてしまうようなその言葉ですら、今の状態には一種の麻薬となる。
口では見え透いた嘘をつきながらも、ダラダラと欲を洩らす自身はもっともっととねだっていた。
「は、あっ……んっ!」
「そろそろ……、いいか」
ただ従順に、その全てを受け入れて。
「んっ……、あ……」
やんわりと自身を再度握られ、たまらない痺れに甘い声を止められない。
自然と熱い息遣いも漏れ出てしまい、とめどなく溢れていく蜜が自身をまた艶やかに濡らしていく。
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