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「オラアァァッ!!! 暢気に寝てんじゃねえぞコラァッ!!!」 チュンチュンと、小鳥がさえずる爽やかで且つ清々しい朝にはおよそ似つかわしくない怒号が冴え渡り、家全体を激しく揺らしていく。 バッタアン!! と荒々しく扉を蹴破って、青筋浮かべ室内へと入っていくその姿はまさに鬼。 「ん~っ、もうちょっと~……」 布団を勢い良く取り上げれば、そこには締まりのない顔で眠りに没頭している秀一の姿があった。 「テメエみてえなのには一秒すら、んな時間用意されてねえんだよこのボケッ……!!!」 ん~っ、と唸りながらもなかなか開けようとしない目に、朝っぱらから苛立ちは募っていくばかり。 「じゃあ、目覚めのチューを……」 ドカァッッ 「くたばってろ」 容赦のない蹴りが決まったことは、言うまでもない。 「ん~……」 「!?」 制裁を下し、ふと開け放していた扉へ瞳を向けて見ると、丁度その前を通りがかる姿を発見する。 「おいっ! 颯太ッ……!!」 バタバタと慌ただしく部屋から出ていき、階段に辿り着こうとしていた颯太の腕を掴むと、同時に強く引き寄せた。 「ん~……、おはよ~咲ちゃん」 「はあっ……、頼むから寝ながら歩くな」 ふあぁ、と欠伸をしつつペタペタ歩く颯太はとりあえず、眠い目を閉じたまま躊躇いもなく家の中を徘徊する危険極まりない存在で。 階下へ転げ落ちるまで後一歩と言うところで防ぎ、何故こうもホッと胸を撫で下ろさなければいけないのか。 「るせえっつのテメエッ!! 朝からムカつくツラ見せんじゃねえっ!!!」 「んだとォッ!? こんなにも爽やか且つ男前に向かってなに言っちゃってんだお前はよ~っ!!」 …………………。 しかし気が休まるような事はなく、賑やか通り越して神経逆撫でするようなウルサい声が耳に届いてくる。 朝から元気に互いを罵り合う、仲睦まじい事この上ない学生ども。 「自分の顔よく鏡で見やがれ!! 爽やかでもなけりゃ男前からも程遠いんだよテメエなんかなァッ!!」 「はあっ!? 可哀相なお兄ちゃ~ん!! 見る目が無くてなんて不幸!!」 「ぁんだとコラッ~!!」 「はっはっは~!! ひがむなひがむな~!!」 プチン 「るせえぇっ!!! テメーらとっとと飯食って消えろ!!!」 「「げっ!!」」 軽快にプチりと今朝もキレ、途端に静かになった2人の足音がリビングへと消えていく。 「ほら……、颯太。ちゃんと目ぇ開けて降りろよ。ゆっくりでいいから、しっかり足下見んだぞ」 「ん~……」 そして未だにグダグダしている颯太の肩にそっと触れ、とりあえず朝御飯を食べろと促す。 「あ゛ー……ったく、こんなんでよくやってこれたな此処は……」 グダグダで寝ぼけで収拾のつかないこの家が、今まで何故やってこれたのだろうという素朴な疑問。 「くっくっ」 「あ?」 階段を無事降りた颯太を見届けて、すぐ後ろから聞こえてきた笑い声に振り向く。 「んっ……!」 と同時に、唇を奪われる。 「おはよ、咲」 「テメエッ……、とっとと起きてきやがれっ……」 先程までの寝ぼけた姿などどこにもなく、目の前に立つ秀一は穏やかな笑みを浮かべている。 「さて、今日の朝ご飯はなにかな?」 「……知るかっ。自分の目で確かめやがれ」 「わ~!! 咲ちゃん咲ちゃ~ん!!」 「あァッ!? ったく、なんだっつの……!!」 リビングから聞こえてきた叫びにブツクサ文句を並べながらも、ごく自然に足が階下へ向けられていく。 「早く~!! 早く早く咲ちゃ~ん!!」 「へーへー、今行っから待ってろ」 その後ろで、愛しげに向けられていた視線には気付かず、パタパタと階段を降り始める。 また幾らか過ぎ去った日の、なんてことはない、朝の出来事。 《END》

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