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『THE END』と表記された恐らくヤクだろう物を一つ、どうするわけでもないのに手に取り、出て来てしまっていた。 「なんでアイツが、こんなもん……」 何か危ない事に関わっているかもしれないという親の勘は、くしくも見事に当たってしまっていたらしい。 けれどそれについては伏せ置き、元通りに引き出しを閉めて鍵を一緒に持ち出してきていた。 「THE END、……終わり? あからさまな名付け方しやがって……」 なんであんなもんを來が持っているのか、入手経路は一体何処だ、なんの為にどういう経緯でアイツの手に渡ってしまったのか。 絶えず溢れる疑問、そのどれもに未だ的確な答えを見いだせずにいる。 「クソッ……」 問いただしたい相手が今、何処でなにをしているのかも分からない。 けれど、ここで全て無かったようにする事はもう、少なくとも今の自分には出来なかった。 分かんねえなら見つけりゃいいじゃねえか、言わねえなら蹴ってでも吐かせればいい。 「……來」 ──何処にいんだテメエは……!! 幅広く作られた歩道を歩きながら、目的もなくただ黙々と足を進めていた。 平静を装う外見とは裏腹に、内面はとめどなく湧く疑問と焦燥感に押し潰されそうだった。 言うだけならば、幾らでも簡単に叩ける。 何の手掛かりもないままに探すのは、始める前からすでに困難が目に見えていた。 「あっちの世界に詳しい奴がいればな……」 自分もついこの間までは、そう大して変わらない世界に身を置いていたのは確かだった。 手当たり次第、目についた奴らをブッ飛ばし続けていたら、いつの間にか族潰しとか言われる様になっちまってたけどな。 それでも今よりは断然、そっちの事情には詳しかった。 色んなとこから目えつけられて、暴力にまみれた日々を送っていただけに。 「それでこんな身体なまらせてりゃ、言う事ねえな……」 そんな時代を過ごしていた事が嘘のような、物凄く遠い頃に思えてしまう。 今は何がどうなっているかなんて分かるはずもなければ、情報を得るつても無い。 別に知りたいと思っていなければ興味もなかったけれど、今は状況が違う。 「……」 記憶の糸を辿らせて、過去へと遡っていく。 潰しまわっていた印象しかない、何処かにやられなかったような奴なんて居なかったのか。 何処かに、顔を合わせた内の誰か、1人位──。 ドッ ドッ ドッ ドッ 「……?」 物思いに耽りながら歩み続けていた時、フッと突然現実に引き戻された。 なんてことはない音の一つ、隣は道路なのだから聞こえて当たり前のはずなのに。 「……」 自然と向けられる視線、ちょうど信号が赤になったらしく停車した車が目に映り込む。 「……ん?」 そこへ歩道に一番近い位置へ、隙間を上手くすり抜けてやって来た一台のバイク。 光を浴びて艶やかに輝きを見せる車体、それに見合う男がバイクに乗っていた。 眩く反射する黒のヘルメットと、そこからはみ出た事により窺い知れる茶髪、ゴーグルをかけていて。 「……まさか、アイツ……」 似たような奴を何処かで、何処かで、何処かで。 「……!」 歩行者信号の色が変わる、視線を向けたまま徐々に距離を狭めていた。 似たような奴、本人じゃねえのか、証拠、証拠は……! 「……左腕に、タトゥー」 信号が青に変わる、一瞬だけ時が止まったような気がした。 程良く引き締まったその左腕に見つけたものは、0を囲む黒い翼。 「……思い出した」 動き出したバイクへ向けて、足はすでにもう駆け出していた。 ゆっくりと考える暇なんてない、この機を逃すわけにはいかない。 前へ進み出していたバイクに、その男の背後へと気付けば飛び乗っていた。 左腕にタトゥー、間違いねえ! コイツ、真宮だ……!! 止まっていた時が再び動き出す、停車していた車やバイクが息を吹き返し、前へ進み出していた。 「……」 徐々に加速を増していく流れの中で、無理やりに乗り込んだ俺は今、真宮だろう奴の背後に陣取っていた。 しかし気味が悪い事に、走り出すまでの間なにも反応が返って来てはいなかった。 まさか気付いてないわけじゃねえよな、流石に。 「……おい」 なんてまた考え事を始めてしまっていた頃、バイクと風を切る音とに混ざって何か、微かに耳に届いた気がした。 「テメエ……! 人のケツに乗り込んでんじゃねえぞゴラァッ!!」 「!? て、まず前見ろお前……!!」 その直後の事、気付いていないかの様に平然とバイクを走らせていた真宮が、ここで突然振り向いては喰って掛かってきた。 幾らでもかかってくりゃいいじゃねえか、でもまずお前は前を見ろ。 「るっせえ!! んでテメエに指図されなきゃなんねんだよ!!」 「危ねえからだろが!! 事故るぞお前!!」 口調や声、息づいていた記憶が鮮明さを取り戻していく。 この荒っぽさといいやっぱり間違いない、ゼロディアルのヘッドだ。 「大体テメエどっからわいてきやがった、 あァッ!?」 「んなもん後から説明してやっから前を見ろとりあえず!!」 ホントにコイツだったか? 確信が数秒後には覆りそうになり、危険運転極まりない行動を続ける真宮に、こんな所で命の危機にさらされる。 出逢った時とは少し違う印象を受けたけれど、きっと本人なのだろうとは思う。

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