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「いい度胸してんじゃねえかテメエ……!!」
「だから……!!」
『そこのバイク、止まりなさい』
「……!?」
これじゃまともに話も出来やしねえ、なんてあからさまに乗り込んできた諸悪の根源である自分の行動を棚に上げる。
「……サツ」
そこへ突如として現れた存在、音量高く響き渡る声はうるさい位に聴覚を刺激する。
振り向けば100メートルあたり先から追い掛けて来る、一台のパトカーが視界に入ってきた。
なんでサツなんか、別になんもやってねえだろ。
「……うわ、意外にスピード出てんだな」
物凄い勢いで追い回されているにもかかわらず、至って平常心に少し身を乗り出しては、速度を確かめる余裕がある。
ただのスピード違反かよ、でも捕まったらめんどくせえだろうな。
とは言え、大人しく捕まる様な奴ではないこと位、分かっていたのだけれど。
『そこの二人乗り、止まりなさい』
じわじわと距離を狭めにかかるパトカーから、またも命令が投げ込まれる。
二人乗り、ああ俺も乗ってっからな。
「……あ、俺ノーヘルか」
スピード違反はもちろんだが、ヘルメットを着用していなかった自分も一役かっていた事にようやく気付く。
「ったく、めんどくせえな」
そこへ一言呟いた真宮が、ここで始めてパトカーを視界に収めたらしい。
「飛ばすぞ」
一瞬の事ですぐ前へと向き直る真宮、発せられた言葉の代わりに、腰あたりにまわしていた片手へ力を込めた。
「あ~あ、今日のはなかなかしつけえ野郎だったな」
ドドド、という音が次第に大人しくなっていく。
裏路地に入ったりと、警察よりも地形を熟知していた真宮が勝り、なんて事もなく撒いてアッサリ逃げ伸びていた。
日常的に追われておかしくない身で今の今まで外で生きれてんだ、そう簡単にしかも大人しく捕まる奴じゃねえだろコイツは。
「……で」
人気など殆ど無い更地、緩やかな速度となっていく途中で、真宮へ触れていた手は離していた。
そして完全にバイクが止まり、暫しの間を置いて開かれた唇。
「オルアァッ!!」
「……!!」
振り向いて位置をきちんと確かめたわけでもなければ、真宮は前を向いたままだった。
停車したバイクに依然と跨ったまま、突然に奴は裏拳を決めにかかってきやがった。
「……っぶね!」
紙一重、不意打ちだっただけに避けることで精一杯、後ろへ身体が傾いていく。
「テメエ! イキナリなにすんだコラ!」
「あ? ならテメエは前もって俺に断りでも入れたか?」
バランスを失い地面に転がるすんでのところで体勢を立て直し、なんとか足をつけたところで口を開いた。
容赦なく顔面に入れるつもりだったらしい拳を握ったまま、前を見据えていた真宮がチラりとここで振り向く。
「なんなんだテメエは? しっかり説明してもらおうじゃねえか、場合によっちゃ潰すぞゴラアァッ!!」
「……!!」
始めっから潰す気満々じゃねえかこの喧嘩屋が……!!
穏やかな空気からは程遠く、真宮の脳内を占めているのはとりあえずまず喧嘩らしい。
「うお! テメちょっと落ち着け! 俺は別にお前と喧嘩しに来たわけじゃ……!!」
そうだ、今も真宮がヘッドをしているならきっと、何か知っていると思ったからだ。
簡単に教えちゃくれねえだろうとは思ったが、あんなとこに偶然いたの見つけりゃまず乗るだろが、てズレたな話が。
「……!」
過去に一度、俺は真宮とやり合ったことがある。
別に狙っていたわけじゃない、ザコをぶっ倒した先に野郎が居ただけだ。
基本は拳だけれど、オールマイティにどれもこなすあたり、根っからの喧嘩屋気質らしい。
頭張ってるだけのことはあるな、あん時は結局ケリつけられなかったんだよな。
「ハッ! 逃げるばっかか!? 乗り込んできた割に半端な野郎だなテメエッ!!」
半端な野郎。
「……!!」
落ち着け、俺は來の居場所やなんかを知る為にわざわざ、今になってまた真宮なんかのとこにだな……!
「結局なにがしてんだテメエは、あァッ!?」
ブチ!!
「んだゴラアァッ!! 誰が半端だテメエ!!」
「ハハッ! やっぱそうこねーとなァッ!!」
理性へアッサリと別れを告げ、今度は容赦なく攻撃を加える側になる。
「へえ…! 重い蹴りしてんじゃねえか!」
俺の身体がなまっているだけなのか、それとも真宮が勝っているのか、入れた蹴りはガードをされてしまった。
ビリビリと全身を痺れるような感覚が駆け巡っていた事など、喰らった本人にしか分からないが、そう簡単に弱音を吐く様な奴ではない。
寧ろ心底楽しそうに、その端正な顔に笑みを刻む。
「……ん? そういやどっかでこんな蹴り……」
そんな折、何かに気付き始めたらしい真宮から言葉が漏れる。
「あ、テメエまさか」
「オラアァッ!!」
元不良は、急には止まれない。
「うおっ!!」
しかしギリギリのところで蹴りはかわされてしまい、切る風の速度が髪を揺らしていく。
「テ、メエッ……、危ねえだろがァッ!!」
「さきに仕掛けてきたのはお前だろがァッ!!」
「あァッ!? 元辿りゃテメエだろが!!」
「知るかボケェ!! 」
お互いに息を荒く収拾がつかなくなってきたところで、ようやく先程までの落ち着きが少しずつ戻ってきたように感じる。
単に疲れただけという読みも、結構いい線いっている。
「ハアッ……、で? 俺に何か用かよっ……」
「あっ」
ひと暴れしないと本題に入れない2人、ここでやっと互いが落ち着きを取り戻したらしい。
真宮からの問い掛けに、ハッと一気に我へと返った。
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