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「……ああ」
伏し目がちに返事をして、ゴソゴソと取り出したモノ。
何を言うでもなく手に握り、真宮へ向けて投げ渡した。
「? ……コレは」
「そいつについて教えてくれ。お前の知ってること全部」
パシ、と音を上げて掌の中へ収まったモノを見て、真宮がそっと呟いた。
一刻も早く、ソレについての情報を得たい、ほんの小せえことでもなんでもいい。
「ヤクか。テメエなんでこんなもん持ってんだ」
「それは今、関係ねえ。聞いてんのは俺だ」
二、三度軽く上下に揺らし、サラサラと粉が踊らされる。
「そうかよ、大した態度じゃねえか。知ってるけど、教えねえっつったらどうする?」
「……吐かせりゃいいだけだ」
笑みを刻む真宮へ視線を向けながら、ジリッと地を踏みしめる。
「へえ、アタマ潰すよりヤクか。族潰しはもうやめたわけか?」
「!? それはお前らが勝手にそう呼んでただけだろが」
どのタイミングでかは知らないが、俺のことを思い出したらしい。
強気な姿勢を崩さず、問い掛けてくるその笑みは不敵なものだった。
「ま、別になんだっていいけどな。テメエに潰された奴らは、それだけ弱かっただけのことだ」
「……」
「けどソイツが俺んとこの野郎だったら話は別だ。今度またなんかしやがったら、容赦しねえ」
言葉や態度からも、今もまだトップに身を置いていることが嫌でも分かる。
チッ、やっぱ簡単にはいかねえか。
力ずくで吐かせるしか、かなり時間食いそうだがやるしか……!!
「あ、ヤクのことは俺マジで知らねえぞ」
「……は?」
駆け出そうと身を少し低くしたところで、出だし一歩目から躓きそうな言葉が耳に入ってくる。
今コイツ、なんつった……?
「ヤクなんかには興味ねえからな。これだって、見たのは今が初めてだ」
「マジかよ……」
ここまできて、収穫無しだと……?
隠しているだけかもしれないと疑いもしたが、見て察するに嘘をついているとはとても思えなかった。
「……そうか」
幾らチームと言えど大小様々なものがあり、全てが同じスタイルを貫いているはずがない。
ヤクなんかやんねえ、まっとうな奴らがいて当然だ。
でも、ここでまた振り出しに投げ出されたらもう、俺はどうしたらいい。
「……」
こうしてる間に、アイツになにかあったら。
「……俺は知らねえが、……知ってそうな奴に心当たりはある」
「!? ホントか!?」
複雑な表情を浮かべ立ち尽くしていたところに、間を空けながらポツりポツりと真宮が呟きを漏らす。
それを聞くや否や、弾かれた様に真宮の元へ駆け寄っていた。
「……けど、あの野郎に借りなんか作」
「なんだっていい! 場所は……!!」
何故か苦々しく言葉を紡ぐ真宮だったが、構わず遮ってしまっていた。
「場所や何かさえ教えてくれりゃ後は俺が勝手に行く!頼む真宮!」
「……」
誰かの為に必死になる、遠く忘れていたような感覚を再び取り戻していく。
今度はもう、その全てから逃げない。
「……急ぎか?」
「ああ」
暫しの間を経て、真面目な口調でもって問い掛けられた言葉に、力強く頷いて返す。
「……、乗れ。俺が話を通す」
顎で示された方向には、先程乗ってきた真宮のバイクが静かに佇んでいた。
重低音を轟かせながら風を切る、青く澄み渡る空の下で加速を増していきながら、一刻を争う事態に少しでも心を落ち着かせようとする。
あの頃の全てを許せとは言わない、けど俺はもう、同じ事は繰り返さない。
幾ら拒絶されたって構わない、ただお前が、無事ならそれで。
「ココだ」
ドッドッ、などという音に包まれながら、一時的に停止したバイクから広がる光景を目にする。
広大な敷地を有する工場跡地らしいそこは、我が物顔に草が生え渡り、あちらこちらに思い思いの落書きが施されていた。
錆びつき荒れたこの場所で、潜む正体は果たして何者か。
「アジトか?」
「今んとこはな」
「?」
一見ひっそりと誰1人も内部に居ないかのような印象を受けたが、目的の人物が中に存在しているのは間違いないらしい。
チームの巣かと思ったけれど、返答から考えるに、どうやら一カ所にずっと留まるような奴らではないらしい。
「めんどくせえから一気に行くぞ」
何がどう面倒なのかが明らかにされない内に、再びバイクが緩やかに加速していく。
それは徐々に鋭く速さを増して、一直線に出入り口へ向けて突っ走っていく。
「なんだ!?」
「!? アイツ! 真宮……!!」
距離が狭まる過程の中で、門番なのか2人内部から姿を現してくる。
「オルアアァァッ!!!」
相手の反応と真宮から発せられた声を聞いて、刹那的な時の中で弾き出された俺がするべき行動は。
「ぐわっ!!」
「う……!!」
右側へは真宮の蹴りが入り、左側は俺が片付けておいた。
「ハハッ! やるじゃねえか族潰し!!」
「やめろボケ!! 俺はサ……ッ」
「さァっ?」
ゴスッ
「芦谷だ芦谷!!」
「ってえ!! テメエなァ!! どさくさに紛れてなに殴ってんだゴラァッ!!」
「うるせえお前は前を見ろ!!」
いまいち息が合っているのかいないのか、地に沈めた2人のことなどとうに忘れ、内部へ侵入したバイクは我が物顔で走りまわる。
つい殴っちまったのは悪かったけど、ちょっとした事故だ許せ。
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