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「ソイツが何処にいんのか分かるのか?!」
「あァッ!? ……大体な」
迷いなく進んで行く一台のバイク、チームメンバーらしき野郎どもがぞくぞくと、何事かと出て来るが片っ端から無視し強行突破。
「喋んなよ! 舌噛んで死ぬぞ!」
階段に差し掛かったところでこの言葉、構わずこのまま上がっていくつもりらしい。
滅茶苦茶な野郎だと心底思うけれど、この男がヘッドを務められている現実に、何故か不思議と納得出来た。
「YEAHHHH!!!!」
そして口を閉じろと言った張本人が、階段をガンガン上がりながら愉快げに吼えている。
マジで滅茶苦茶だな、コイツ。
「!? 空……」
やがて段差に終わりが見え、登りきった先へ到達した世界には、何処までも続く青空が映り込んできた。
「!」
一気に開ける眩い世界、視線を前へと戻した時にようやく気付いた。
「……いやがったな」
荒廃した屋上、老朽が窺い知れる柵に身体を預け、こちらへ背を向けている男が1人。
先程とは一変し、絞り出すように真宮が低く呟いた。
「相変わらず威勢がいいこって」
何物にも染まらない黒をメインとした出で立ち、銀に染められた髪が時折風に靡く。
その男から発せられる言葉、相手が誰なのかすでに検討がついているらしい。
「なあ、真宮ァ」
振り向いたその顔は、目鼻立ちの整った綺麗な造りをしていた。
銀糸のような髪に、編み込まれた様々な色をした毛が、所々で見え隠れしている。
そうでなくても銀髪に、毛先だけ黒くされた部分があったりと、一目で癖のありそうな存在だと知れる。
首には黒いチョーカー、薄く笑みを刻む男は真宮へ言葉を掛けてくる。
「……」
エンジンを切りバイクから降りた真宮は黙ったまま、躊躇いもなく男との距離をある程度まで狭めていく。
後ろ姿を見つつバイクから身を離すものの、一部始終をとりあえず見守っているしかない。
「お?」
そしてピタりと足を止める、その間2、3メートルというところだろうか。
相変わらず口を閉ざしたままで、ゴソゴソ取り出されたものを男へ投げ渡す。
「……ふ~ん、意外だぜ」
速さをもって強く投げられたモノだったが、片手でパシンと掴み取り、まじまじと眺めてからの一言だった。
一体なんであるかを知っているような、そんな口振りだった。
「ソレについてテメエが知ってること、全部吐け」
「俺はテメエなんて名前じゃねえけど?」
「……漸 」
「あっ、その吐息混じりな声感じちゃう」
「テメエなあァッ!!!」
「怒んなってえ。んで? そっちのお客が知りてえっつうわけ?」
いまいち敵対なのか友好なのか判断しかねるところで、漸という名らしい男はここで初めて視線を向けてきた。
「……ああ。そのヤクについて知ってること、全部教えてくれ」
少しだけ歩を進め、底の知れない瞳を持つ漸へ、腰低く言葉を告げた。
「……、THE END。果てへ、果てる」
笑みを浮かべてはいるが貫く様な視線、間を空けて紡がれ始めた言葉は、理解するのに戸惑うものだった。
「単に終わりなんていう意味じゃなく、真に隠れる言葉は果て」
「……果て?」
『THE END』という名の意味について語っているのか、困惑する俺を余所に、漸はゆったりと話を進めていく。
「己の限界とする向こうへ、思考がぶっ飛ぶ。果てへ、果てる」
「……」
終わり以外の解釈があったのか、上手いこと考えて掛けた言葉でも、笑い話にすら出来ねんだよ。
「初回はお手頃価格、二度目からは値が倍以上に跳ね上がる。依存性がつえ~らしくて、万札束にしても手に入れてえヤクらしいぜ?」
「……依存性」
一度ハマれば抜け出すことは困難、それを確信した上でのさばき方。
勝負は二度目からっつうわけか、そこで一気に取り戻せてしかも多い位の金が入ってくる。
頭使ってんじゃねえか、虫酸が走るぜ。
「ま、ある意味で流行りもんだなコレ。ソリッドグール、そんな名前のチームだったかなあ」
「巣は何処だ」
「さあ? やべえもんさばいてんだ、一カ所に留まってっかよ」
「……確かに、そうだな」
簡単に足がつくような真似はしないか、それでもかなり有力な情報を得たことは確かだった。
「ま、今もいるか知んねえけどォ。どっかの廃ビル?」
「!!」
後はどうにかして接触を試みれば、いやもうそんな回りくどいことせずに片っ端から潰してきゃその内当たるか、などと考えていた頃に降りかかった一言が、全てを変える。
「何処のかは知らねえけどな?」
「……十分だ」
來と会った、あの日。
盲点だった、俺は廃ビルから出て来たアイツのことを見ていたはずなのに。
今もそこが根城であるならば、きっとそこに全てがある。
「そ? 少しは参考になったかよ。綺麗なお兄さん?」
「…ああ」
俺の様子を見て、漸は軽い調子で言葉を掛けてくる。
「じゃ、これでお開きだ。なあ? 真宮」
この場で得た情報を脳内で繰り返しながら、早まる気持ちをどうにか抑えていた。
漸は満足そうに歩を進め、やがて真宮のすぐ側で足を止める。
依然として真宮は俺から背を向けていて、表情などは全く分からなかった。
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