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「芦谷」 そんな時、名を呼ぶ声に反応し、視線が真宮の後ろ姿へ集中する。 「そのバイク貸してやるから、行け」 「は? 行けってお前なに言って……!」 そして聞いた言葉は、素直に頷けるものではなかった。 バイクを貸すから行け、何故真宮はここから退かない? 「この借り、どう返す?」 「……好きにしろ」 疑問符が巡る中で聞こえてきた会話、借りを返すという言葉にハッとする。 「まさか……、おい! 借りって……!!」 「決まってんじゃん、情報料だぜ?」 真宮は俺をここまで乗せてきただけじゃねえか、なんで俺じゃなくソイツへ求める。 「タダなわけねえだろ? そんな安そうな野郎に見えるか?」 「……」 全ッ然見えねえ、じゃねえ。 「なら俺に要求すんのが筋ってもんだろ」 視線は俺へ向けたまま、何も答えず漸はするりと真宮の肩へ、抱くかの様に腕をまわす。 「必要な情報を得てここにもう用は無い。バイクを貸すから行けと言われたお前こそ、とっとと消えんのが筋じゃねえ?」 肩からやがて首筋へ移る手は、滑る様にその表面を撫でていく。 先程から一言も発しない真宮、表情さえも今は知る術がない。 「お前にはお前の事情、俺らには俺らの事情がある。こっから先の世界に、お前の居場所はねえ」 「つってもお前……!」 「とっととお前のあるべき場所へ行くんだな。じゃねえと、真宮が辛くて可哀想だろ?」 「……あ?」 薄笑みを浮かべ威圧的な眼差しを向けていた漸だったが、終わりがけの言葉に再び疑問が生まれてくる。 真宮が、辛くて可哀想だと? 背を向け俯き加減にも見える後ろ姿、拳は硬く握られ、何かを押し殺し耐えている様な印象を受けはするものの分かるわけもない。 なにがどうつれえんだ、さっきからずっと首触られてるだけじゃねえか。 「とにかくソイツは関係ねえだろ」 考えたところで閃くわけもなく、動かず退く気も更々なかった。 「ふ~ん。……ん?」 すっと目を細め、何か考えるかの様に言葉を否定するわけでもなく流す。 そして後に漸は気付く、視線を真宮へ向けて暫しの間言葉を絶った。 真宮と視線を合わせていたのか知らないが、瞳は幾分穏やかに見えた。 「いいぜ、ちょっとだけな?」 少しの時を置いて呟かれた言葉と共に、真宮の首から離れていった手。 「ッ……、芦谷」 振り向きはしなかったけれど、真宮からの声だということは容易く知れた。 「後で取りに行っから、ひとまず有り難く乗っとけ」 「真宮……」 俺には、俺の事情。 背中でも押されるかの様に、この場から立ち去っていく心が次第に出来上がっていく。 俺が次にとるべき行動が、掛けられた言葉によって定められていく。 「……悪いっ」 きびすを返した先に見えるのは一台のバイク、注がれる光によって眩い輝きを放っていた。

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