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「!? どうしたんだソイツ……!」
驚きの表情を見せたもののすぐ自分を取り戻し、駆け寄ってきた。
「あちこち傷だらけ……」
桐也の行動により漸く我に返ったらしい2人、遅れて走り寄って来ては、颯太が辛そうに言葉を漏らす。
「頼む……、今は何も聞かずにコイツを、かくまってくれ……」
「咲ちゃん……」
余りにも都合が良過ぎるのは分かっているけれど、來を安心して置いて行ける場所はココ以外には無い。
いつの間にか重要で、欠かせない場所となっていたこの家。
その視線は、切実なるものだった。
「俺の部屋使え」
1人1人へと目を向けていた中で、桐也が冷静に事を進め始める。
「……悪い」
手を差し出してきた桐也へ、ゆっくりと慎重に來の身を離し預けていく。
「俺は、今からまた出なきゃなんねえ……」
いつしか意識を手放していた來の姿を見つめ、一歩後退する。
「咲ちゃん」
そこへ颯太が進み出て、袖をくいと引っ張ってきた。
「何があったかは分からないけど、咲ちゃんの頼みを断るわけがないよ」
「……」
「頼ってくれて有難う。この人は絶対、守るから」
「颯太……」
その気持ちに不覚にも、目頭が熱くなった。
男の詳細を語る暇が無いとは言え、見ず知らずの存在を守るとまで言ってくれた颯太、後に控えていた2人も気持ちは同じらしかった。
此処に来て、良かった。
「……頼む」
言葉少なではあるが確かに込められた感謝の想い、來を託し早々に立ち去ろうとした。
~~♪
「?」
まるでタイミングを見計らったかの様に、辺りへ響く着信音。
「……!」
音の出所に視線を向けてハッとした。
來だ、來から聞こえてくる。
「何処だッ……」
桐也に抱かれていた來の身体へ再度触れ、音が止む前になんとか携帯を取り出そうとする。
「あった」
後に指先から伝わる感触、掴み一気に引き出していた。
ピッ
「……」
通話中となる電話、相手の出方を窺おうととりあえず無言を貫く。
誰からの着信だったのか知るはずもなかったけれど、何故かイヤに気持ちが騒いでいた。
『お、出た』
少しの時を経て、聴覚を刺激してきた男の声。
『おい出たぜ? まあでも声は出ねえみてえ、て当然だよなァッ!!』
通話の相手、周りには誰かしらが居るらしく耳障りな笑い声が響いてきた。
來が電話に出れる様な状態でない事を、知っている。
「……」
ブッ殺すと、この場で宣戦布告なり出来たら幾分かは気がおさまるだろう。
しかし我慢をしなければ、これはある種チャンス。
『そこまでして出たっつうことはさあ、俺らんとこに戻りてえっつう気持ちがあるってことだよなあ?』
戻りたい気持ち、戻る?
話を聞きながら思考を巡らせ考えていく、この男はソリッドグールの1人なんだろうか。
だとして戻るとは何か、まるで來が抜けたような口振りだ。
『やっぱ後悔してんだ? そうだよなあ、いてえしなあ、盗みなんてダメだぜ來~』
盗み、一体なんの話をしているか。
『ブツさえ返しゃ許してやる。0時までに4番倉庫だ。来なかったらテメエ、分かってんだろなァ……』
ブツ、來が何を盗んだと言うのか。
声の調子が変わる男、おふざけはもう終わりらしい。
『抜けようなんて馬鹿なこと考えんなよ。仲良くやろうぜ? 來』
目の前で痛々しい姿を晒す來へ、日付が変わるまでに来いと言う。
どうやら巣の場所は、移動していたらしい。
そして男は、自分たちが傷付けておいて、平気でまた仲良くやろうなんて言葉を吐く。
一体どちらが正しいのか、そんなの決まっている。
『じゃ、ヨロシク』
俺が信じるのはお前だ、來。
それが例え間違いでも構わない、俺はお前を信じたい。
「咲ちゃん……?」
プツりと通話が切られた携帯、心を決めていく中で考えるのは、やはり來はソリッドグールと関係があったのかということ。
チームからの電話だったのか、周りには何人も人が居る様に感じ、なにかを來に盗まれた。
ソリッドグールが所持していたモノ、奴らがおこなっていたこと──。
『THE END』
「!! 悪い、ソイツを頼む……!」
火花が散る様に弾かれた記憶、來はソリッドグールから『THE END』というヤクを盗んだ。
それならば來の部屋に隠されていた大量のヤクも納得出来る。
そしてチームを抜けようとしていた、なら何故ソレを盗んだのか。
そこまでは分からない、けれど今はもう突き進むしかない。
心配そうに掛けられる颯太の声、答える代わりに視線を向けて、すぐに外へ出る為背を向ける。
「咲ちゃん!」
ガチャりと開いた先の世界が、闇に染まりながら広がっている。
強く呼ばれた声の主へ、振り返る。
「無茶は、しないでね」
危険に関わるなとは言わない、自分の信じるものの為に、時には危険を侵さなければならない時もある。
それでも──、
無茶だけは、するなよ。
「……、ああ」
こんな時だというのに、去り際にフッと、言葉を聞いて微笑んでしまう自分が居た。
何処かで聞いた台詞、だったからだろうな。
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