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闇を照らす無数のライトが行き交う、心中は驚く程に無音だった。
きっと來なりに考えてとられた行動だったのだろうが、ヤクなんてものがあるだけで身には破滅を呼び寄せる。
その先に安堵なんて無い、チームとの関わりすら断ち切ることなど到底出来ない。
それに加えて、取り戻したからといってハイさようならと、奴らのようなチームが來から簡単に手を引くだろうか。
どう足掻いたところできっと、來は潰される。
「なら、そうなる前に……」
俺が奴らを、潰せばいい。
來が隠し持っていた残りのヤクも持ち、目的地へ向かい飛ばしていた。
あの頃は、ただ自分にとって目障りに映る奴らを片っ端から潰していくことで、俺が俺である為の自己を保っていた。
物事を深く考える時間から逃れたかった、自身を見つめる事を拒絶していた。
けれど今はもう、自分を取り巻く何物からも逃れたくはないと、先を真っ直ぐと見据えながらそう思う。
意識がなくとも関わったチームはことごとく葬られていった、例外は一つあるけれど、それを除けば全ての族を潰したこととなる。
「……」
初めて意思を持って、族を消し去る。
この一夜だけ、俺は過去に戻る。
かつて呼ばれた、族潰しとして。
「お? 来たんじゃねえの?」
半開きになった両扉の奥で交わされる言葉を余所に、バイクを停めしっかりと地を踏みしめながら、ぼんやり漏れ出る薄明かりへ向かい歩いていく。
闇夜に包まれた黒い海は彼方まで広がり、ただ静かな時の中を漂っていた。
「ちゃんと来れたじゃあん。お帰り、來」
羽織っていたパーカー、目深にフードを被りゆっくりと複数の人物が待ち受ける中へと、ヤクの入った袋を手に持ちながら進んでいく。
そして響き渡る声、見ればコンテナに座っていた男が1人、直感で先ほど電話をかけてきた者だと思う。
軽い調子で紡がれる言葉、暗さも手伝って俺が來だと思い込んでいるらしい。
「さっきはごめんなあ? でもお前なら分かってくれると思ってたぜ?」
誠意など一切感じられない言葉、上辺だけの謝罪が胸の内を焦がしていく。
「でさあ、ソレ? 返してくんない?」
この男がソリッドグールの指揮をとっている者だという確かな証拠はなかったけれど、発言する権利を持てるだけの地位はあるらしい。
他メンバーが見守る中、男は笑みを浮かべながら少しずつ俺との距離を狭めてくる。
持っていたものがヤクだと気付いている男は指をさし、早く取り戻したくて仕方がないようだ。
「ソレ返して仲直りといこうぜ? お前だってそうなんのを望んでんだろ?」
「……そうだな」
手を差し出し歩み寄ってくる男に対し、ボソりと呟いてから行動に移す。
ドサッ
「!?」
思い切り投げたヤク入りの袋は男を越え、溜まり場と化した奥へと放られていく。
わざわざ引き取りに歩いてきた男を、結果無視することとなった。
「……らいぃ~……」
バラバラと袋からはみ出るブツ、それを回収するべく駆け寄っていたメンバーを余所に、放たれる声からは穏やかさが消え失せていた。
「どういうつもりだアァッ……?」
「返してやっただけだ。こんなもん、いらねえからな」
震わせる低音、未だに相対している人物が來ではない事に気付かない男。
──こんな野郎に。
「……なんだと? 偉そうなこと言うじゃねえか、なに? その態度」
後方を一瞥してから向き直り、その声音には明らかな怒りが含まれている。
こんな奴が居る様なチームに加わって、一時でも満たされたことはあったのだろうか。
「まだ、気付かねえのか」
よく見えないとはいえ、未だに來ではないということに気付かないチームへ、湧き上がる複雑な気持ちは徐々に怒り一点に集中する。
「は?」
含みを持って放つ言葉に対して、全ての視線が自分へ注がれるのが分かる。
もういい、こんな野郎とどれだけいたってなにも変わらねえ。
着ていたパーカーへと手を添えて、一気に場面展開を図る。
「……?」
バシ、と音を立てながら地へと叩きつけられたパーカーは力を無くし、そのままはらりと側で沈黙する。
同時に露わとなった顔立ち、姿。
目を細め見つめる男を見据えながら、今度はこちらから歩み寄っていく。
「!? テメエ、來はどうした!」
「アイツは来ない」
徐々に近付いていくにつれ、ハッキリと見えていくそのサマに、ようやく現れたのは來ではなかったと理解出来たらしい。
動揺し一歩後退する男、構わずその差を縮めていきながら問い掛けに対する答えを吐き捨てる。
「……ハハッ、そうだよなあアイツが来れるわけねえもんなァ! よく考えりゃ分かることだったぜ!」
始めは戸惑いが窺い知れた男だったが、すぐに落ち着きを取り戻したらしく、終いには声高らかに笑い出す。
「アンタは可哀想な來の代わりにわざわざ届けに来てくれた、最っ高のお人好しってわけだ。優し過ぎて涙が出るぜ!!」
倉庫中に響く笑い声、なにが可笑しいのか奴らは楽しくて仕方がないらしい。
思う事は結局、コイツらはブツさえ取り戻せられればどうだっていいというわけだ。
此処に来ていたのが來でも、俺でも、最終的に辿る道は──。
「ま、ありがとな? つうわけで、……お礼しねえと」
その言葉を合図に、今まで傍観者となっていた周りが一斉にゾロゾロと動き出す。
「代わりに持って来てくれたアンタに、すっげえ心込めっからよォ、受け取ってくれよお礼をな?」
「……物騒な礼だな」
視線を巡らせ大体の人数を把握していく、ざっと20人というところだろうか。
お礼とは名ばかりの、口封じを今まさに始めようとしているソリッドグール。
例え来ていたのが來だったとしても、きっとこうなっていただろう。
最初から、何もせず返すつもりなどない。
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