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「来たのが來だったら、どうしてた」
「は? ボコるに決まってんじゃねえか。逃げやがってあの野郎、見つけてぜってえブチ殺す……!」
「あれだけやって、ブツ返しても足りねえのか?」
「あの野郎は俺らソリッドを裏切った……! もうつるみたくねえなんてクソムカつくこと言いやがって!! 知らねえ暇にヤク持って逃げてやがったんだ!! あん時にぶちのめすつもりだったっつうのに……最っ高にムカつくぜ……!!」
「……そうか」
苛立ちを募らせる男を見つめながら、ふとよぎるのは傷だらけで意識を手放していた來の姿。
こんな場所から抜け出したのは良いとして、どうしてヤクを持って逃げていたのだろう。
分からないが、きっと後にこの靄は晴れてくれるはず。
「まあとりあえず、テメエだけで今日は許してやっからよオォッ!!」
「一つ、答えろ」
「あァッ!?」
どんな想いで此処に居たかなんて、知り得るはずもないけれど。
「お前らにとって、來はなんだった」
きっと俺がこれからしようとしている行為が、間違いとなる事は決してないだろう。
何故なら、そう──。
「は? なんでもねえけど。なに? ははっ、アイツ俺らと対等のつもりでいんの?」
奴らは存在するに、値しないから。
「……そうかよ。これで心おきなくやれる……」
「はあ?」
この一夜で完全に、息の根を止めてみせる。
俺は、俺の信じるものの為に。
そして──。
「來が世話になったな。俺からも礼させてくれよ」
──兄として。
「オラアァッ!!」
半開きとなっていた出入り口からうっすらと射し込む月明かりは、ただ静かにこの行く末を見守っている。
一斉に襲いかかってきたソリッドグール、勘を取り戻していきながら群がる敵を地へと確実に叩きのめしていく。
「クソ……! なんなんだテメエは!!」
あの頃を彷彿とさせる族潰し、けれど決定的に異なる部分がある。
「ぐあ! い、てえ……!!」
加減、今の俺にあって昔の自分になかったもの。
「めんどくせえもんよこしやがって來の野郎……!!」
折るなら勢い良く潔く、二度とこんな事に関わりたくないという意識になるよう、砕ける盛大な音の中で導いていく。
來が巻き込まれるような事態には、決してしない。
「や、やばくねえ ……? つえぇよアイツ、マジで……ッ」
喧嘩をしていく流れに乗り、徐々に鋭さが戻りつつある動きに、少しずつソリッドグールの意識に乱れが芽生え始める。
向かって行く者がことごとく倒されていく現実に、やがて窺うように間合いをとったまま動かない輩が現れ出す。
行けば自分がやられ痛い目をみるかもしれない、そうはなりたくないと瞳は素直に語っている。
「あァッ!? っに怯んでんだテメエ!!」
「ぐっ……!!」
1人から漏らされた怯えは感染していく、その現状に苛立ちが最高潮となった男は声を荒げ、仲間であるはずのメンバーへ容赦なく拳を振るう。
「1人相手になにビビってんだテメエら!! 揃ってヤク中になりてえのかゴラァッ!!」
そして荒々しくではあるが再びチームの士気を上げようとする姿に、自ずと示されるトップの頭角。
やっぱあの野郎か、此処のアタマは。
「けどアイツ……、ずっと足しか使ってねんすよ……!」
「あ?」
「それに……、あの蹴り……覚えが……」
一時的に休戦となった倉庫内で、殴られてもなお言葉を発する1人、じっとこちらを見つめながら何か記憶が蘇ってきているらしい。
誰もが耳を澄まし、静寂を打ち破る言葉の先を欲しているようだ。
足しか使っていなかったのは、奴らがそれだけで十分事足りていたから。
それに、蹴りのほうが殴るより楽なんだよ。
「前居たチーム、……似たような奴が1人で乗り込んできて、……メンバーみんな、半殺しの病院送りにされた……」
「それってあれだろ!? 関わったチームはどれも潰されたっていう……、!!」
そして、まとわりついて離れない視線を浴びながら、笑んだ表情には艶を湛える。
肯定ととれる表情に、波紋のように広がっていく確信。
「ぞ、くつぶし……っ、アイツ……、族潰しだっ!!」
「んで今更また出てくんだよ!! やめたんじゃねえのかよ!!」
「病院送りにされたんじゃねえの!?」
「どっかのアタマの女と駆け落ちしたって聞いたぜ!?」
………。
忽然と行方をくらませば、何の確証もない噂が流れに流れ肥大していき、噂に踊らされやがて記憶から消えていく。
再び記憶に残る族潰しが息づいて、戦意を一層なくしていくメンバー。
「うるせえぇ!!!!!」
口々に持っている族潰しの情報を交わしていくメンバーへ、怒号がその全ての行動をフリーズさせた。
「族潰しかなんだか知らねえけど、アンタ有名人なんだな? しかも潰されなかったチームはねえみてえだし、確かにつえ~よアンタ」
しんと静まり返った場を支配する声、トップは一歩前へと出て、真っ直ぐ視線を向けながら言葉を続けていく。
「そんな族潰しをぶちのめしたら、すげえんじゃねえ?」
愉快気に、この男の目には野心が灯っている。
「あの族潰しを倒したなんて知ったらよォ、どいつも一目置くぜ?」
理想の未来が定まったところで、俄然やる気となった男は表情をニヤつかせる。
族潰しという名を踏み台に、チームの成り上がりを狙い始めた。
とことんまで、救いようがねえんだな。
「要は倒しゃいい。そうすりゃこの一帯は、な~んもしなくたって俺らがシメれる」
負の感情に満ちていたメンバーが、1人また1人と男の言葉に立ち直っていく。
どんな手を使ってでもとにかく勝てばいい、単純明快で考える必要すらない。
「なんたってあの族潰しを倒しちゃったんだからよォ? いいと思わね? なあ?」
勝手に倒した気でいんじゃねえ、とこめかみがピクりと反応したところで。
「!?」
予想外のことに、驚きを迎え入れるはめになる。
「ソリッドグールへようこそ。予定を変更して丁重にもてなすぜ?」
投げかけた問い掛けに対し、答えるかのようにざっと出てきた者たちは、今居る人数の倍以上だった。
一体どっから湧いてきやがった……!!
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