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3※
「ッ……」
と、そう考え始めるとキリが無く、けれども不満げに一度秀一へ目を向けると、遠慮がちにチラりと舌を差し出して、仔猫の様に二、三チロチロと舐めとってみせる。
「美味いか……?」
「……別にッ」
「ほら、それじゃよく分からないだろ? もっとちゃんと、食べたらいい」
「んっ。い、らねえよバカッ……、口に、押し付けんじゃねぇっ……」
絡み付くクリームを唇に添えられ、なに人に食わせて減らそうとしてんだと思うも、秀一の指が邪魔で上手く言葉を紡げない。
手こずっている間に、腰へまわされていた腕がするすると動き始め、秀一の舌先が首に這わされていく。
「んっ……、テメッ、なにしてっ……」
「ん……? イタズラ」
衣服を捲り上げ、割と敏感な脇腹を擦られてしまい、首筋への舌も相まって、途切れ途切れな言葉を漏らしてしまう。
「ざけんなテメェッ、いきなり盛ってんじゃッ、ぁっ!」
火を点けてしまったのは自分なのだが、そんなことには露程も気付くはずがなく、どうしてこんなことになってしまったんだろうと思う。
抵抗しようにも胸を摘ままれ、突起をくにくにとこねまわされてしまい、威勢のいい反撃も喉の奥へと掻き消えていく。
「あっ……、ぅっ」
「咲……、この指、綺麗にしてくれないか?」
「んっ……、だ、れが、そんなことッ……」
次第に熟れ、ピンと張り詰めていく突起を弄られながら、クリーム塗れの指を未だ口元に添え、到底出来ないことを求めてくる。
テメエが食えばそれで終わりじゃねえかッ……、んでわざわざんなことさせなきゃなんねんだよッ……。
「咲……」
「んっ……、ふ、んっ」
悪態をつくも言葉には出来ず、呼ばれた名に少し振り向くと、間近に迫る秀一が見え、ゆっくりと唇を重ねられる。
両者が含んでいたクリーム、それにより更なる甘さが加えられ、ピチャりと唾液と溶け合いながら、上品な香りが口内に広がっていく。
「ん、んっ……、ぁっ、はっ……」
歯列をなぞり、すぐにも舌を捕らえにくると、絡み合いながら逃げられもせず、溢れた唾液が口端を伝い落ちていく。
頭の芯からボウッとし、また良いように流されていることを嫌うも、実際は僅かな抵抗すら出来なくなっていた。
「はぁっ……、はっ」
胸の突起を弄られる度に、深い口付けの最中でもピクりと身を跳ねさせてしまい、どちらも受け入れることだけで精一杯だった。
そんな中でようやく唇を解放され、自然と秀一の胸に身体を預ける様な形になり、荒く漏れる息を止められない。
「ほら……、咲?」
肩を上下させ、甘ったるい吐息を繰り返していると、クリームに塗れた指を差し出し、その先を促してくる。
なんで俺が……、そうは思うも心はすでに観念しており、ソロソロと秀一の腕を掴むと、顔を近付けて一本一本丁寧に舐め取っていく。
「んっ……」
先ほどとは違い、しっかりと差し出した舌で綺麗に舐め取り、時おり甘い息を吐き出しながら、根本から指先へと、艶めかしく舌を滑らせていく。
「美味かったか……?」
耳元で囁かれ、考えるよりも早くに、コクンと素直に頷いてしまう。
するといとおしそうに秀一が笑みを浮かべ、今度は触れるだけのキスをすると、「甘いな……」と糖度を増した唇に告げ、その手も衣服の中へと潜り込ませる。
「あっ……、秀一ッ……、や、めっ……」
思わずシンクのへりを掴み、クリームなどでベタつく指が脇腹を滑り上がり、胸元をまさぐり始めたことに耐え忍ぶ。
「はあっ、あっ……、ぅっ、んっ……」
「ココ……、そんなに感じるのか? 女の子みたいだな」
「あっ……、ち、がっ……。あっ」
腰が砕ける様な低音、大人の色気漂う声音で鼓膜を犯し、耳朶を一度甘く噛んでから、内部へと舌を差し入れる。
「あっ、あっ……、やっ、しゅぅ、いちっ……、や、めっ」
「なら次は何処がいい……? 言ってごらん」
またも耳元で囁かれ、イヤイヤと緩く頭を振りながら、秀一の問い掛けを弱々しく拒む。
言えるわけがなく、またそんな性格を十分に知っておきながら、その上で意地悪く紡いでくる。
「このエプロン……、ちゃんと着けてくれてるんだな。嬉しいよ」
「あっ……」
「それで? 咲は何処がいいんだったかな……?」
身に付けていたエプロン、それは以前、秀一と息子たちがプレゼントしてくれたもので、圧倒的に颯太の意思が尊重されたなんとも可愛らしいものだった。
これを着けろと……? とそれはもう内から震えが走ったものだが、それでも自分なんかの為を想ってしてくれたことが嬉しく、とても有り難かったことを今でも鮮明に覚えている。
素直に感謝を述べられなかったけれど、日々コレを身に付けることで少しでも返せればと、正直なところあまり近寄りたくないエプロンではあったが、台所に立つ時は必ず着けるようにしていた。
「言えない……? なら俺が、当ててやろうか」
「えっ……、な、にっ……、あっ」
「此処……、もうこんなに熱くしてるのか」
自分から求めることなど出来ず、恥ずかしさに顔を背けていれば、当ててやると告げた秀一の手が滑り、熱を纏う自身へと触れてくる。
生地越しにも分かる昂り、それを悟られて更に恥ずかしさが募り、泣きそうになりながら顔を俯かせる。
「咲? ……どうした?」
「る、せぇっ……、も、やだっ……」
情けないところばかり晒してしまい、自分ばかりが翻弄され、意地悪なことを強いられている現実に、とうとう心は音を立てて折れ、ポロポロと涙が零れ出す。
昔はどんなに孤独を強いても、どれだけ身体や心を痛めつけられようとも、涙なんて流したことがなかった。
常に渇き、モノクロの景色にたった一人取り残されながらも、欠落していた感情は、寂しいという気持ちすら与えようとはしなかった。
そんな自分が、いつからだろうか。
縋り、涙を流し、時おり滲む弱さを見せられるようになったのは。
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