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「わ~!! 咲ちゃん作ってくれたんだ!!」
夜も更け、元気良く三人が帰宅してから夕飯を済ませ、リビングでそれぞれがくつろぎながら過ごしていた時に、顎で颯太に冷蔵庫を指し示す。
それだけでパッと顔を明るくし、一目散に冷蔵庫へと駆け寄ると、開いたと同時に嬉しそうな声で室内が一杯になった。
「咲ちゃんありがとう! すごい美味しそう! わ~! 食べていい!? 食べていい!?」
一つ取り出してパタパタと忙しなく戻り、此方を見上げながら幸せそうに喜びを表す。
まさかここまで喜んでくれるとは思わず、少々照れ臭さを感じながらも、嬉しそうににこにこと笑う颯太を見て、ついつい知らぬ間に此方も微笑んでしまっていた。
「あ~! 咲ちゃん笑った!!」
「ッ……、笑うかバカッ。さっさと食って寝ろ」
微かな微笑だったものの、それを目ざとく見つけられ、急に恥ずかしくなって顔を背ける。
「颯ちゃんばっかズリィ~! なあなあ咲ちん! 俺の分は~!?」
「だアァッテメッ! わざとらしく前に出てくんじゃねえ! テレビ見えねえだろがボケ瑛介!」
「お兄ちゃんてばそんな怒んないで~! ほらほら! 俺の熱烈なチューをプレゼントしてやるから!」
「いーらーねええ!! 引っ付くなこのボケェッ! テレビ位黙って見させろオォッ!!」
口を挟む隙ナシ、相も変わらず仲の良い兄弟はじゃれ合いながら、テレビのチャンネル権をめぐって熾烈な争いを始めている。
……付き合ってられるか。
「ん~! 美味しい~!」
「……あ、お前ソースもあんだぞ」
「え、そうなの!? でもこれだけでもすっごく美味しいよ!」
「……そうか」
早くも食べ始めた颯太を見て、そんなに急がなくても逃げねえぞと思いながら、心が穏やかに満たされていくのを感じる。
某二人による争いがうるさいが、そんなことは今だけサッパリと無視をして、自然と手が颯太の頭を撫でていた。
「へへっ、咲ちゃんだ~いすき!」
そう言って笑う颯太に、心の底から幸せを感じる。
「……あっ、そうか!」
「ん?」
そんな時、コクンと飲み込んだ颯太が何かを思い出した様に声を上げ、此方を見つめてくる。
それにはてなを浮かべながら小首を傾げ、継がれる言葉を待つことにした。
「だから咲ちゃん! さっきエプロンしてなかったんだね!!」
「ッ!!」
そしてすぐにも紡がれた言葉は、鉄槌を下された様な衝撃と共に、脳内へと重く響き渡るのであった。
それは禁句だ……、颯太……。
「そっかそっか~! 昼間コレ作ってる時に汚しちゃったりしたんだね!!」
「うっ……」
澄んだ瞳に見つめられ、とてつもなくいたたまれない気持ちになるが、真実を告げるわけにはいかない。
汚したは汚したが、そこに含まれる意味は全く違うのである。
「颯太……、もう一個食べるか」
「え、ホントッ!? わ~!! 咲ちゃん大好き~!!」
上二人は全く気付くことなく戯れ続け、向かいのソファに腰掛けていた秀一は、珍しく此方の会話に割り込むことなく、先ほどから静かに珈琲を飲み続けている。
本当に静かに、若干居辛そうにしながら、内心秀一も心臓を跳ね上がらせつつ、表面上は平静を装っていた。
この野郎……、後で覚えてやがれ。
もう散々締め上げたのだが、また新たなる決意を胸に抱き、とりあえずは颯太の意思を逸らすべく、ブランマンジェをもう一つ与えるのであった。
《END》
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