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どれほどの時を、そうしていたことであろう。
咲と許枝、両者の行く末に誰もが視線を奪われ、地下駐車場には静けさだけが漂っている。
痛みを忘れ、とめどなく溢れる血にも構わず、一触即発の雰囲気に呑まれながら、後ろ姿を声すら発せず見つめ続ける。
未だ銃口を当てられ、物言わず視線を突き合わせたまま、両者ともに微動だにしない。
瞬きすら、呼吸すらも起爆剤になってしまいそうで、誰も彼もが身動き一つせず、辿るべき結末を黙しながら見守っていた。
「……くだらん。興をそがれた」
やがて許枝が紡ぎ出し、咲の額から銃口を下ろすと、自らの誓いを呆気なく撤回させる。
そして拳銃をしまい込み、驚きに目を丸くしている咲を余所に、顔色一つ変えずに横を通り過ぎていく。
「貴様の好きに生きるがいい。お前の手など借りずとも、俺は立派に、跡目になってみせるさ……」
目前で立ち止まり、衰えを知らない怜悧な美貌が、真っ直ぐに此方を見つめてくる。
何処か寂しげな表情を見せ、何か言いたそうに唇を開きかけるも束の間、あるべき姿で絶縁へとすり替え、尊大に別れを言い放ってくる。
常闇に身を置きながらも、許枝のひととなりは出会った頃から変わらず、強く揺るぎない瞳が証明してくれている。
だからこそこんなにも、許枝を慕って配下が集い、家族よりも深い絆で結ばれているのだ。
「許枝ッ……」
「行くぞ。こんな者に割いてる時間は無い」
呼び掛けには応じず、僅かな未練すら感じさせないまま、やがてこの身をも通り過ぎていく。
言葉が合図と化し、方々に配下が散り失せていくと、至るところからエンジンが響いてくる。
見上げれば咲が、未だ微動だにせぬまま立ち尽くし、振り向くことすらしないでいる。
何故このようなことになっているのか、どれだけ考えても見当がつかない。
意思を覆し、自らの身を退いてまで、何故両者ともに生かす道を選んでくれたのだろう。
嬉しくないわけがない、だが、未だに信じられないでいる。
一台、また一台と遠ざかっていく音を聞きながら、何も考えられず頭が真っ白になっていく。
俺は……、どうなったんだ……?
「咲ッ……?」
最後の一台を遠くに聞き、やがて少しずつ静寂を取り戻し、先ほどまで立たされていた死の淵が嘘であったかのように、生きることを許されている。
そうしてハッと、咲の後ろ姿にようやく言葉を掛ければ、それを合図に前へとぐらつき、力を無くして膝をついてしまう。
「咲ッ!? くっ……!」
何処か傷を負っているのか、膝をついてくずおれてしまった咲へと、駆け寄ろうと立ち上がりかけて苦悶する。
しかし今は、こんなものに振り回されている場合ではない。
激痛を振り切り、点々と赤い血を路面に残していきながら、少しずつ咲との距離を狭めていく。
銃口を向けられるよりも先に、命を危機に晒させるような手傷を、すでに負わされていたのかもしれない。
くっ……、言うことを聞け……!
痛みに苛む足を引き摺り、やっとの思いで肩を掴むと、そのまま転がり込むように身を崩す。
「咲ッ……、おい! 大丈夫か!」
顔を覗き込めば、表情無く下を見つめている咲の額には、うっすらと汗が滲み出ている。
そこから身体へと目を向けるも、特に目立った外傷は見つけられず、大きな怪我をしているわけではないと察する。
となればもう、思い当たることと言えば一つしかなかった。
「馬鹿野郎ッ……、無茶しやがって……」
許枝と命の駆け引きをし、すっかり気が抜けてしまったのだ。
あのまま撃たれ、亡き者にされている確率のほうが、他よりも遥かに高く凌駕していた。
今こうして息をし、目の前に居てくれていることが不思議な位だッ……。
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