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颯太が振り返り、黙々と箸を進めている秀一へと話題を振れば、すかさず瑛介が横槍を入れて場を和ませる。 振り向けば、秀一が不満そうに言葉を並べながらも箸を止め、穏やかな表情で瑛介へと視線を注いでいる。 憤りは無く、そもそも怒りに満ち溢れる理由など始めから有らず、終始優しい笑顔を浮かべながら会話を楽しんでいる。 「そうだぞー! それを更に抉れなんて酷すぎだろう! いつからそんな親不孝者に……! 父さん、悲しい!」 「俺も便乗して悲しい! いつからそんな俺不幸者に……! もっと優しくしろよなー! 瑛介くんを大切に!」 「うるせえよ。大概にしろよ、お前等」 額に手を添え、あたかも悲しんでいるような素振りを見せると、すぐさま瑛介も真似をする。 秀一、瑛介共に悪ふざけを大いに楽しんでおり、桐也は付き合ってられるかとばかりに盛大に溜め息をついてみせる。 テレビからは絶えず様々な楽曲で溢れ、数多のアーティストが入れ代わり立ち代わり自慢の一曲を披露しており、その度に割れんばかりの拍手と、熱烈な歓声があちらこちらから湧き起こっている。 「ねえ、咲ちゃん」 然して興味も無いのだけれど、一度は耳にしたことのあるようなフレーズが流れるとつい見てしまい、こういう人物が歌っていたのかと内心で思う。 賑やかな掛け合いを聞き、そのような調子で時おりテレビへと視線を移していれば、不意に話し掛けられて箸を止める。 見れば颯太が顔を向けており、一体どうしたのだろうかと思いながら視線を合わせていると、すぐにも笑んだまま二の句を紡ぎ出してくる。 「コレの作り方は、どうやって覚えたの?」 コレ、と言われて一瞬迷うも、すぐにもぜんざいが指し示されているということに気が付き、何から話せば良いものだろうかと思考を巡らせる。 特にテレビから得たわけでも、本から学んだというわけでもなく、単に母がよく作ってくれていた過去の情景をふと思い出し、記憶を手繰り寄せながら味を再現してみせただけのことなのである。 もしかしたらもっと甘く、柔らかな白玉であったかもしれないのだけれど、懐かしい光景を思い出すには十分過ぎるほどであり、今頃何をしているであろうかとつい考えてしまう。 「ガキの頃、寒くなるとよく作ってくれて……」 「お母さんが?」 「ああ」 すっかりわだかまりも解け、好きな時に声を掛ければ良いと分かってはいるのだけれど、今度は照れ臭くてなかなか顔を合わせることが出来ずにいる。 随分と長い間、面と向かって会話を楽しむ機会から己を遠ざけ、孤独に身を置いている時間があまりにも長過ぎたが為に、未だ一人で立ち入るにはなかなか勇気が必要であった。 最も、そのように思っているのは案外、此方だけなのかもしれないけれど。 「アレ、お客さんかな?」 そのような時、不意に玄関のチャイムが鳴らされ、談笑中の室内へと大きく響いていく。 瑛介と桐也は顔を見合わせ、颯太は小首を傾げながら言葉を漏らしており、大晦日の夜に一体どのような人物がやって来たのであろうかと、皆一様に頭上へとはてなマークを浮かべている。 振り返れば秀一が居り、俺が出ようかという素振りを見せられるも断り、椀と箸を静かに置いて立ち上がる。 こんな時間に誰であろうかと思いつつ、知り合いの顔を順に浮かべてみるのだけれどもそもそも訪れるはずもなく、それほどまでの急用がまず見当たらない。 配達という線もあるけれど、そのような予定は今のところ一切無いはずであるし、では其処に立っているのは一体誰なのであろうかと不思議に思いながら、玄関へと辿り着いて扉を開けて見る。

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