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「咲ちゃん、どうかした?」 浮かれる酔っ払いを前に、いっそ武力で解決を試みれば余程早いのではないだろうかと、内なる悪魔に囁き掛けられる。 眼前では、來と真宮が手に手を取り合い楽しんでおり、とても素直に言うことを聞いてくれるとは思えない。 だからこそ、早急な解決を望むのであればやはり、拳で大人しくさせてしまうのが一番手っ取り早いのではないかと考える。 流石の真宮も、このような状態ではまともに応戦することすら叶わず、直ぐ様深い眠りに就いてくれるであろうと思え、その方が此方としてもすごく助かり、またとても有り難い。 そうと決まれば、いち早く夢の中へと案内してやるべく拳を鳴らし、二人に悟られぬよう間合いを狭めていく。 大人しくさせたらどうしようか、特に真宮は何処へ送り返してやれば良いのだろうかと考え、その後の展開を自然と思い描いてしまいながら間合いを詰めていると、不意に名を呼ばれて反射的に振り向いてしまう。 「颯太……」 視線の先、居間から顔を覗かせている颯太が居り、穏やかな双眸を向けられていることに気が付いて、慌てて物騒な選択肢を彼方へと放り投げる。 「あ、來兄ちゃん!」 暫し颯太と見つめ合い、お手上げ状態の中でどうしたものかと立ち尽くしていれば、背後で真宮と楽しんでいる來を視界に収めたらしく、笑みを浮かべながら飛び出していく。 「來兄ちゃんだったんだね~! 誰が来たのか気になってたんだ!」 目の前を通り過ぎ、真宮と何事か話している來の手を取り、颯太が嬉しそうに声を掛ける。 温もりに気が付き、きちんと颯太であることを認識出来ているのかは謎だけれど、來も笑い掛けながら手を握り返している。 「アレ? もしかして來兄ちゃん、酔っ払ってる……?」 温かな手を取り、端正な顔立ちを見上げている颯太が、なんだかいつもとは違う様子に気が付いて、首を傾げながら言葉を漏らす。 來と言えば頬を染め、相変わらず真宮とご機嫌な様子で笑んでおり、今は颯太のことをぼんやりと見つめている。 「ん……、酔っ払ってない」 「嘘、酔ってるよ。お酒臭いし」 「酔ってない」 颯太が指摘するも、酔っていないの一点張りで首を振っており、來も相当飲んでいるであろうことが窺える。 普段であれば、男らしい口調や振る舞いで接しているところなのだけれど、今は子供のようにあどけない態度で颯太と話しており、貴重な光景と言えば聞こえはいいかもしれない。 依然として手を繋ぎ、颯太からの問い掛けに首を振り続けており、目に見えて酔っ払っているにもかかわらず、揺るぎ無い真実を決して認めようとはしない。 手が焼ける弟だと思いつつ、ひとまず來を颯太に任せても大丈夫そうだと考え、もう一つの問題を解決しなければと向き合う。 「……で、お前は一体何処で誰と飲んでたんだ? ヘッドの名が泣くぞ」 腕を組み、溜め息混じりに真宮へと声を掛ければ、來と同様に赤く酔っ払っている顔を向け、ぼんやりと見つめ返してくる。 何を考えているのか分からず、元よりこのような状態で働かせる思考力など高が知れているけれど、今だけは牙を隠してふらふらと酩酊しており、時おり眠そうに欠伸をしながら瞳を潤ませている。 「もしかして、チームの連中と飲んでたんじゃないのか?」 「……そうなのか?」 「そうなのかじゃねえよ……。俺が知るわけねえだろ」 唇を開いたかと思えば、全く為にならない言葉を紡ぎ出されてしまい、やはり殴って眠らせるほうが早いような気がしてしまう。 傍らを見れば、颯太がせっせと來を家に上げており、確かにこのまま玄関に突っ立っていても仕方がないと思い、ひとまず酔っ払いたちの面倒を見てやることにする。 真宮の手を取り、うつらうつらしている危なっかしい言動を見守りながら、さて今後どうするべきかと思考を巡らせる。 今日は大晦日であり、賑やかなチームや真宮の性格から考えて、大勢で飲めや歌えやの大混乱を好んで催していそうな気がする。 となれば、ナキツや有仁が行動を共にしているはずだと思い、特にナキツあたりが真宮の行方を心配しているのではないかと思う。 断りを入れて出てきたとは思えず、明らかにその場の勢いだけでふらふら放浪していたに違いなく、此方も手が焼けるトップだと思う。

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