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颯太の出来の良さに感激していると、不穏な気配を感じて振り返り、來がふらふらしながら聞き捨てならないことを呟いている。 「來兄ちゃん、具合悪いの?」 「う~……、頭がぐるぐるする」 「やべえ! 來くん発射しちゃうんじゃね!? よし桐也! 受け止めて来い!」 「お前が行けボケカス。て大丈夫か? ホント」 わらわらといまいち不安が残る助っ人達が來を取り囲み、明らかに飲み過ぎて体調不良を引き起こしている身体を休めようと、背中を擦ったり水を汲みに行ったりしている。 秀一も気に掛けてはいるものの、許枝を解き放っては更なる大混乱が容易に想像出来る為、ソファに腰掛けたまま酒を酌み交わしている。 其処へ、更なる訪問者を告げるチャイムが鳴り響き、一つの確信をして真宮の手を取り、直ぐ様玄関へと早足に歩き出す。 何がなんだか分からないながらも、大人しく手を引かれて歩いている真宮と二人、廊下に出てから程無くして玄関へと辿り着き、外で佇んでいるであろう人物を思い浮かべながら扉を開ける。 「お待たせ、お兄さん」 視線の先には、先ほど電話で駆け付けてくれるよう要請していた(ぜん)の姿があり、真っ白な息を吐きながら品の良い笑みを湛えている。 挨拶もそこそこに、未だ酔いが醒めるどころか深みに嵌まっている様子の真宮を見つけ、漸の表情がより晴れやかさを増していく。 「お兄さん」 睡魔を追いやろうと目を瞬かせ、ぼんやりと余所見をしながら突っ立っている真宮を背後に、靴を履かせようとしていたところで漸に呼び掛けられる。 頭で考えるよりも先に顔を向け、漸の話を聞こうと黙っていれば不意に手を取られ、ぐいと引っ張られて体勢を崩してしまう。 そのまま立て直す暇も無く抱き締められ、何がなんだか分からぬ内に本日何度目かの口付けを頬へとお見舞いされ、ゆっくりと解放されながら漸の双眸と視線を絡ませる。 「大好き。俺を呼んでくれてありがとう」 誰もが魅了されてしまうような笑みを乗せ、丁寧で柔らかな言動を受けて少々恥ずかしくなってくるも、どうやら漸を選んだのは間違いではなかったようだと思う。 品の良い笑みと、落ち着いた態度にすっかりと誤った印象を植え付けられ、真宮にとっては果てしなく災難でしかない人物が、目に見えてご機嫌な様子で帰り支度を手伝っている。 「ところでお兄さん、とても堅気とは思えないような車が外に停まってるんだけど……、随分と立派なお客さんがお目見えで?」 言いながら置かれている靴を見て、穏やかな物言いながらも探りを入れるような鋭さに、一瞬言葉を詰まらせてしまう。 気安く口外出来るような客人ではなく、何と言えば良いものかと思考を巡らせていると、そんな空気を察して漸が真宮の手を取り引き寄せる。 「まあ……、別に誰が来ていようがどうでもいいか。さて、お兄さん。真宮は責任持って俺が送り届けるので……、どうかご安心を」 「ん……、漸。なんだお前……、居たの」 「なに……? 真宮ちゃん。ようやく気付いたわけ?」 正確な答えは紡げない為、下手な言い訳を考えていたのだけれど、話題を変えられたことで人知れず安堵する。 傍らに立たされ、漸が話していることに気付いたらしい真宮がぼんやりと見つめ、今更ながら存在を認識している。 だいぶ前から会話をしていたにもかかわらず、ようやく漸が居ることを認めた真宮にさぞやガックリするだろうと思うも、扱い慣れているのか全く意に介さず、始終ご機嫌な様子で言葉を述べながら立ち去ろうとしている。

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