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「悪かったな。急に呼び出したりして」 「こんな急用なら大歓迎、いつでも呼んで……?」 日頃の感覚が麻痺しているのか、漸が現れても憎まれ口を叩くどころか未だご機嫌な様子で、手を引かれても全く嫌がる素振りを見せない。 携帯電話に番号が登録されているくらいなのだから、もしかして本当は仲が良いのだろうかとも思え、軽く頭を下げる漸に応えながら、なんだかんだで友好的な関係にあると捉える。 けれども実際は、断りを入れず勝手に漸が真宮の携帯電話へと番号を登録していたのだが、知る由も無いのでただひたすら良かった良かったと安堵する。 漸と真宮が立ち去り、若干平穏を取り戻したと思いたいのだけれど、相変わらず大騒ぎしているであろうことが容易に窺え、溜め息一つ気を取り直して居間へと戻っていく。 賑やかで温かな騒動を前に、怒ったり呆れたり笑ってしまったりもしながら、あっという間に一年の終わりが間近に迫っている。 以前であれば有り得ないような温もりに身を置き、來の介抱に加わりながら忙しく過ごし、日頃の生活よりも圧倒的に追われている気がしてならない。 しかしそれでも何処か満たされていて、居場所があることに対する幸せと、快さに包まれており、このような日々が嫌いではないのだと認めずにはいられない。 「アレ!? なんか知らねえ内に紅白終わってんだけど……! 結局どっち勝ったんだよ!」 「あ、つか年明けた」 「ええ! 嘘バカマジ!? あけおめと言うしかないな今すぐ! 桐也バカおめ! あ、ごめんあけおめ!」 「テメわざとだろうが……!!」 気が付けば帰ろうとしている許枝が居て、秀一と何事か話している二人の側で、ゆっくりする暇も無く迎えてしまった新年を慌ただしく祝いながら、瑛介と桐也が早速とばかりに口論を始めている。 年が明けてもこの調子かと、額に手を添えつつげんなりするも、なんだか可笑しくて自然と笑みを浮かべてしまう。 「咲ちゃん、明けましておめでとうございます!」 「俺も俺も! おめでとー! ハイ、桐也くんもご一緒にー!」 「うるせえ、バカ瑛介! あ……、まあ……、おめでとう」 「声がちっせー! なに不必要に照れてんだよ!」 「だからうっせんだよ! 何よりお前がうるせえ!! 照れてねえっつんだよ!!」 いつの間にか來は、こたつですやすやと眠りに就いてしまったものの、颯太に元気良く新年の挨拶をされ、次いで瑛介や桐也からも続々と声を掛けられて少々戸惑う。 一様に純粋な笑みを刷いており、じっと見つめられて照れ臭さが急激に募るも、嫌がる気持ちは欠片足りとも存在していない。 「面倒だが……。おい、イロ。今年は世話になるなよ?」 「お前の世話になった覚えなんか一度もねえよ。後……、その呼び方やめろ」 不満を露に言葉を返せば、許枝が愉快とばかりに鼻で笑い、彼なりの気遣いとも取れる台詞を残して去っていく。 命のやり取りをしていながらも、後々こんな風に言葉を交わせる時が訪れるものなのかと、どうしてかじんわりと熱くなる胸を押さえつつ、いい加減にイロを撤回しろよ馬鹿野郎とも思う。 恐らくこれから、本業の方に専念するのであろう許枝は、先ほどチラリと耳にした集まりへと顔を出すべく、新年早々から何処かに向かうのだろう。 一体どのようなことをして、そもそも許枝が身を置いている世界がどんなものであるのか、思えば自分はよく知らずに生きている。 把握する必要など無ければ、知らぬが仏と思えるような事情ばかりが溢れ出しそうだけれど、一度は秀一も足を踏み入れていた場所であるだけに、話くらいならその内聞きに行ってやってもいいかなと考えてしまう。 あれだけのことがありながら、本当に不思議な縁だと思う。

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