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「ふう……。途中から急に慌ただしくなったが、どうやら無事に新年が明けたようだな」 一仕事でも終えたかのように、やれやれと溜め息混じりに輪の中へと加わり、秀一が穏やかな笑みを浮かべて佇んでいる。 あまりにも慌ただしすぎて、新たな年を迎えたという実感がなかなか湧かず、完全にタイミングを逃したような雰囲気に一同笑いを抑えることが出来ない。 何が起こるか分からないものだなと、つい先刻の出来事であるのに遠い過去のように感じられて、早速総出で思い出話に花を咲かせつつ賑わっている。 相変わらず点けっぱなしのテレビには、各地の様子が順に映し出されており、今は雪深い神社を訪れている人々の模様が中継されている。 あの頃、孤独を好んでいる振りをしていた過去は、何をしていても時の流れが遅く感じられたような気がするけれど、現在はなんだかんだで満たされているからだろうか、月日の流れがとても早く思えてしまう。 「咲、明けましておめでとう。今年も宜しくな」 暫し物思いに耽り、そういえば年越しそばを作ろうとしていたことを思い出し、早速取り掛かろうと場から立ち去りかける。 すると不意に呼び止められ、振り向けば全員から視線を注がれており、何事かと思っている内に秀一の唇からも、新年の挨拶が告げられて動きを止めてしまう。 桐也、瑛介、颯太からもすでに言われており、このまま何も答えず調理場へと逃げるのは気が引けるも、発言を待たれている状況で唇を開くのは結構勇気がいる。 今更照れる必要もないのだけれど、笑みを湛える一同に見つめられたら恥ずかしくなってくるのも当然であり、暫くその場に立ち尽くしたまま視線を逸らす。 けれどもそれでは駄目だと、好意に背くような真似はしたくないと懸命に照れ臭さを振り払い、言葉少なではあるけれどもやっとの思いで答えを返していく。 頬が染まるのを止められず、自分でも何を言っているんだろうかとは思うも、不器用なりに気持ちを込めて受け答える。 「……こちらこそ」 そして照れる顔をこれ以上見られまいと、彼等に背を向けて足早に歩き去り、これから作る年越しそばのことでも考えて心を落ち着かせようとする。 けれども暫くは拭い去れず、今度は出て行きづらいと思いながら支度を整え始め、どんな顔をしていれば良いのだろうかと混乱してしまうんだけれども、どんなにぶっきらぼうにしていようが、彼等の前に出ればそれもきっと長くは続かない。 「……今年も、宜しく」 面と向かってはなかなか言えないけれど、聞こえる賑やかな声を心地好く感じながら呟いて、これまで出会った様々な人物や出来事を思い出していき、なかなか繋がりが切れなさそうな曲者揃いだと溜め息が出そうになるも、何処かでまた顔を合わせる時を楽しみにしている自分が居たりもして。 今年も更に騒がしくなりそうな一年が、慌ただしく幕を開けている中で、そんな日常も悪くはないと思えてしまうことに驚きを感じつつ、材料を取り出してさて作ろうかと気持ちを切り替える。 昨年よりも更にまた、五月蝿くなりそうな日常を思い描いて、ついつい笑んでしまいそうになりながら。 《END》

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