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6※

「どうする……? 逃すつもりはないが、それでも逃げてみるか……?」 目前で笑まれ、大人の色艶を孕む端正な顔立ちに瞳を奪われながら、縋り付くように袖を掴んでいた手をそっと離す。 そして僅かに身体を起こし、秀一の首に腕を回してぐいと引き寄せ、柔らかな唇を触れ合わせる。 啄むように軽く、秀一の唇へと口付けを施し、すぐにも回していた腕もろとも離れると、僅かに軋む音と共にソファへ沈んでいく。 秀一と言えば、あまりにも予想外な不意打ちに目を見開き、驚きの表情を浮かべている。 自分でも何故、そのような行動へと及んでしまったのか分からず、重ねられている手を僅かに動かして、ふいと視線を逸らす。 頭で考えるよりも先に、秀一へと表された素直な感情であり、ようやく白旗を上げ、流されまいと足掻き続けていた気持ちが全面的に観念する。 「逃がすつもりもねえんなら……、何しても無駄だろ」 尚も秀一から視線を逸らし、顔を俯かせながらボソボソと想いを紡ぎ出すと、瞬時にカァッと頬を染めていく。 それはつまり、何をされても構わないと言っているようなものであり、遠回しに続きを求めて身体を投げ出しているようなものである。 あまりにも包まれた言い方で、誘い文句としてはまだまだ精進の必要がありそうだけれど、それだけで全てを理解してくれる秀一が相手なのだから、別段これ以上磨きを入れる必要は無いのかもしれない。 「好きにしろよ。……お前なら、別にいい」 視線は合わせられないけれど、重ねられている手にさわりと指を絡ませていきながら、照れ臭そうに敗北の意を唱える。 特に意図も無く、湧き上がる感情を素直に言葉へ乗せただけなのだけれど、秀一の理性に止めを刺すには十分過ぎる威力であり、唐突に顎を掴まれたかと思えば即座に唇を重ねられる。 「ん、ふっ……、はぁっ、あっ」 容赦無く、貪り尽くすような荒々しい口付けに曝され、息も絶え絶えになりながらも舌を絡ませ合い、秀一の頬を撫でるように指を添えていく。 どちらとも分からぬ唾液を纏い、クチュりと煽るような奏でを室内へと響かせていきながら、やがて首筋を甘く食んでから舌先を滑らせていく。 鎖骨を通り過ぎ、すでに一頻り嬲られて隆起している胸元へと辿り着くと、一方の突起を指の腹で押し潰したり、こねくり回したりしていきながら、もう一方には改めて舌を這わされる。 転がせるように舌先で弄び、熱く蕩けそうな口内へと時おり導かれていきながら、煽るように音を立てて吸い上げられてしまう。 「あっ、ん……、はあっ、あっ」 たまらないとばかりに声を漏らし、秀一へ触れていた手を力無く下ろすと、ひんやりとした革張りのソファの感触が伝わってくる。 嫌でも張り詰め、舌先で舐め上げられる度にしこりを増していき、唾液に塗れてぬらぬらと艶げな光を帯びている。 弄ばれる程、中途半端な快感を与えられて放り出されている自身へと熱が集まり、何もされていないにも係わらず欲に塗れた白濁が滲み出ていく。 それを知ってか知らずか、時にはツゥッと指の先で脇腹を滑り落ちていきながら、核心を避けて通るような愛撫を与えられ続けてしまい、物足りなさから次第に淫らな欲望が深淵から這いずり出してくる。 「はぁっ、あっ……、秀一……」 甘く噛まれ、微かな痛みすらも快楽へとすり替えられていきながら、両の突起がピンと張り詰めて硬度を増している。 考えられないような甘い声を漏らし、今ではうっすらと従順な眼差しに涙を浮かべ、狂おしい程に熱を孕む吐息を繰り返している。 「あっ……、そこだけじゃ……、い、やだ……」 与えられる淫らな戯れに堕ち、普段からは到底考えられないような言葉を紡ぎ出すと、切願するような眼差しで秀一を見つめる。 外気に晒され、先ほどまで加えられていた愛撫が休められているにも係わらず、しなだれるどころか纏う熱を増していき、先端からは欲に塗れた蜜が止めどなく溢れている。 時おりヒクつき、遠回しな愛撫を捧げられるだけで絶頂へと近付き、欲望が解き放たれる瞬間を今か今かと待ちわびている。

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