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第77話
「そうか。翠に会ってきたのか」
「うん。とても面白い人だったよ。」
今シンさんの部屋で話をしている。シンさんと翠玉さんは友人だと聞いたから
「どうして仲良くなったの?」
「翠が一時北で過ごしていたし…俺があいつに特別な好意を持っていたからな…」
「え?」
「初めて翠に会ったのは南の主がサコンに代替りする少し前。
南の者の代替わりは主が死んだときのみ行われる。そして多く残した子孫の中でも特に見目が美しい者が選ばれるんだ。あの時はミネかサコンかで意見が真っ二つに別れてな。
その決断をさせられたのが翠だった。
…まぁ…本当は翠を推すものの方が多数だったのだが…翠は元々南の者ではない…前主があいつをとても気に入り無理に南に入れたんだ。その執着といったら無かったな…南に来て直ぐから前主と何度も交わるうちにあいつに南の力が宿った。
生まれが南ではないあいつには本当は南の能力はなかったんだ。
力が強いと言われていたがそれは南のあの力ではなく透視、予言、知力、攻撃力等。一人で生きてきた翠は己が生きるため全てのことを独自で身に付けていたのだ
下のものはあいつが南の者でないことを知るものは少ない…
前主があまりにも翠を愛ですぎた為翠は一時…あまり良くない扱いを受けていたんだ。
それを見かねた前主がここに暫く預けた。己の力でも終息できたのだろうが…己の先の長さを感じていたようだ。
前主が倒れた時初めて翠の統率力を理解した南の者たちは大切な次期主を決めることを翠に託した。
南に戻る直前まで…俺はあいつと…まぁ…そういうこと。一時は良い仲だったのだが…結局…な…
己のことがあり次期主になったときに特定の者を作ってはならないという決まりを前主は作った…役割が疎かになってしまうからだ…南を変えるためにはそれしかないと思ったのだろう…」
「そっか…」
「あいつが人の子と添い遂げたいと言ったときは大騒動だった。しかも体の弱い女だと聞いたからな。あいつはそれでも人の子…カナメの母である紡を選んだ。紡は体は弱かったが頭も良く、機の利く美しい女だった。カナメは紡に良く似ている。美しく聡明だ。そこに南の力まで加わるのだからカナメの穴を埋めることは容易くはなかった。だからハクが来てくれて良かった。リョクのこともよく育てた…翠はもしかするとこの事を予感していたのかもしれない」
「翠玉さんは幸せだったのかな?」
「前主のことは父のように慕っていた…毎日絡み合いそれが普通の家族とは違う。歪んでいるとわかっていてもあいつは幸せだった。初めての家族だと思っていた。前主が死に自分が選んだはずのサコンには心を許すことはできなかった…そんなとき紡に出会い己の本当の家族が欲しいと思いその相手は他でもない紡しかいない。そう決めたあいつはこれまでよりずっと美しかった。サコンは兄のように翠を慕っていたから翠の幸せを願い南から出ることを許した。子が出来覚醒したら南の従者にするという約束をさせ送り出した」
「サコンさんは…」
「それ故カナメへの執着は大きかった。それを納得させたのはハクだ。ハクしか出来なかった。結果今は翠もサコンもカナメも幸せなはずだ。翠をみてわかっただろ?あいつ…花畑背負ってるみたいだもんなぁ…」
「うん。すっごく…可愛かった」
「わははっ!!可愛いとは…面白い…あいつはそう言われることはなかったからな。確かに…今のあいつは美しくもあるが可愛らしい。幼子のようだ…」
「もう気持ちはないの?」
「俺か?無いな。あれは良い思い出だ。」
「シンさんは誰か添い遂げたい人はいないの?」
「ん?俺の思いは叶わないものだから」
「え?そんなのわからないよ」
「いや…わかってるんだ…」
「え?でも…わっ…」
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