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第3話

    え、だれ?     ……どこかで見たよう気はする。透き通るような肌に色のない髪、景色を映し出す瞳。  一度目にしたら忘れるはずのないその風貌をどうしても思い出せない。  頭を傾げる。どこかで、多分遠い、いつの日かに……なぜか思い出せない。  「えっと……ごめん。君は?」    ビー玉のような瞳が曇る「思い出してくれたのかと……」小さい声で独り言のようにつぶやいた。  「どうやってここへ入ったの?」   入った?どこへ?    「誰かの声がした気がして、木戸が開いてて……あれ」  聞こえたのは誰の声だったのだろう、通りには人っ子一人いない。  「そう?声がね」  その青年は手を取ると、歩き始める。どこへ行くとも告げずに。ただ歩く。手を引かれて後をついていく、どこへ行くのかとも問わずに。  「ここ」  寺の山門の中へと招き入れられる。正面に古いお堂が見える、手入れされた参道、手水舎には清水が流れていて、竹の柄杓の底を濡らしている。  ただ生きている物の気配がしないというだけで、こんなにも殺風景だ。    「そろそろ日が暮れるね」  木戸に手をかけた時には、既に沈みかけていた夕陽。あれから小一時間は経っているはずなのに。太陽はまだ街並みを茜色に照り渡していた。  「もう食事の支度はできているから、こちらへ」  そう促されて後をついて歩く。  ここはどこだろう早く帰らないと、明日の数学の……  ……あれ?数学って何だろう?  ……何をしなくてはいけなかったのか?  これからどこへ行くはずなのか、それさえ思い出せない。

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