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第4話
「おや?その彼は?」そんな声が聞こえたような気がした。振り返るとさわさわと木々が揺れている。風の音か。
「あの、僕は仲谷俊太郎 です」
「知ってる」
そうじゃなくて名前が知りたい。
「あの、名前……」
「一色 」
一色という名前には覚えがない。同じ学校なのたろうか……あれ「ガッコウ」って何だろう?
ぼんやりとした景色が浮かぶ、けれどそれが何なのかさっぱり分からない。
「あの……一色さん、ここは?」
「一色でいい。ここは、僕の居るべき場所」
答えにならない答えが返ってくる。聞きたいことはそうじゃない、けれどそれ以上聞くなというように一色の返事が聞こえてしまった。
案内された和室には作り立ての膳が二つ並べてあった。促され座して椀を手に取った。温かい椀からいい匂いがする、不意に理由も分からず込み上げてきた懐かしさと寂しさ。
あれ、この感覚は……なんだろう。
「さあ、何だろうね」
発していない言葉を捕まえられて、ぎょっとした。君は誰?いや、違う……僕はいったい誰なのだろう。
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