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第5話

   『……とは……たちませぬ……』  ……夢?  食事をした後にうとうととしていたようだ。誰かと話をしている夢を見た。何の話をしていたのかはわからないけれど。  「ごめん、どのくらい寝ていた?」  「ん?ほんの数分だよ」  「風呂に入ってくればいい」と言われ立ち上がる。  足を一歩出した時に背中に冷たいものが走った。知っている、分かる、どこへ行けばいいのか。始めてきたはずのこの場所なのに。  きしきしと廊下が音を立てる、擦りあう木の葉の音が耳につく。そしてその二つの音が重なった時、くらりと目眩がした。  ……その瞬間に目の端に誰かの影が見えたような気がした。  「ひいろ?」  恐々と、誰もいないその方へと声をかけてみた。  「なに?」    真後ろから声がして、驚いて振り返る。  「今、そこに誰か……」  「誰かって、ここには僕と君しかいないよ」  そう言って一色はくすくすと笑った。そうだ、二人だけいればいい。それが一番大切なんだ。  え……なぜ、それが大切なんだろう?  「ねえ、一緒にお風呂に入ろうか?」  陽が落ちた寺の中は、ろうそくの揺らめく薄い灯りに照らされている。薄く落ちる灯りが白い髪、透ける肌の一色をさらに美しく見せる。一瞬、一色の髪が長くなったような錯覚を覚える。その紅い双眸に移る男は一色に見とれていた。  「一色、綺麗だ」  そのひと言に一色が目を細め俯いた、上気した頬が薄い桜色に染まった。

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