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第6話

 時間が経つにつれ、記憶がはらはらと落ちて散らばり始めた。  「そろそろ眠たくなってきた?」  そう声をかけられて、自分がいつの間にか風呂に入り着替えていることに気が付いた。誰が着つけてくれたのか袖を通したこともないはずの浴衣をきちんと着ていた。   たった今まで、廊下で確か一色と話をしていて。   廊下って……どこの廊下だろう。  「ねえ、一色?」  一色に声をかける。白い着物に輝く流れを作る白い髪、紅い瞳、薄桜色の唇が美しい。見惚れて声も出なくなる。とくとくと小さく聞こえていた自分の心音が、どっどと音を強めた。  「はい、何?どうしたの俊太郎、そんな目をして?」   声がでない、目の前にいる男の美しさにのまれる。何かがさっきとは違っている。ああ、髪の長さが違う、そして唇にさすあの桜色が違う。  今日通りで助けてくれた少年とは似ているが違っている、別人だ。そっくりなのにまるで違う。そして、今目の前にいる一色という名の少年を見つめる自分の心音が妙に速い。  「ねえ、こっち……」  下から手をすくうようにして、取られた。吐息がかかるくらいの距離に目眩を起こしそうになる。  「ひいろ……」  「はい、俊太郎」  奥に向かう襖をするすると引き開けると、その先に一組の布団が敷いてあった。  「こちらへ」    痺れたような感覚が全身を蝕んだ。  「あの時は、幼くて。あなたの言葉だけが生きる力だった」  ……あの時?  幼いころに、どこかで出会ったというのだろうか。

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