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第7話
絹の擦れる音がする。
「やっと……」
……やっと?
一色は夜着の上の羽織をするりと脱ぎ落した。薄い白い着物に身体の線が浮かび上がる。
「一色、教えて。俺は誰、そして君は本当は誰?」
「……僕が分からない?そう、さっきの俊太郎の瞳、思い出してくれたのかと思っていたのに……まだ」
一色の目に落胆の色が広がった。
ああ、一色をがっかりさせたと慌てる。
何を慌てているのだろう。何を忘れていて、何を思い出さなきゃいけないのだろう。
「ご、めん」
「ううん、僕こそごめんね。もう眠ろう、明日も早いから」
もう明日、今日は疲れた。長い一日だった。
そういえば、今朝は一体何をしていたのだろうか。思い出せない、今日は……。
『……俊太郎、寺には寄っちゃ行かんと言うたはずだ。あそこには化けもんの子がおる』
『何で?化けもんやないよ。和尚様も病気やけど、ええ子や言うてはったし』
『その病気が感染ったらどうすんのや!』
分かってない、誰も分かってない。独りで、独りぼっちで日がな一日、寺の庭を眺めて僕が来るのだけを楽しみに待っているんだ。
だれも分かってないんだ。
目が覚めると、頬が濡れていた。夢、なんて悲しい夢。心が痛くなる。そして隣で体を小さく丸めるようにして眠っている一色を見てどうしようもない愛しさがこみあげてきた。
「おはよう、一色」
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