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第11話

  「ひ、いろ?」  するりと肩から絣の着物が床に落ちる。薄い綿の半襦袢に裾よけだけの姿になった一色は、薄いガーゼで包まれた陶磁器のようだった。  「白い……な」  「俊太郎は、この肌の色がが嫌?こわい?」  「ちが……綺麗だと思って」  一色は嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑った。弧を描いた唇だけが桜色より濃く色づいた。  ぞわぞわと身体の上を虫がはい回っていくような感覚が起き、ぶるっと身体が震えた。  「一色……」  「ねえ、ここ。触って、動いているでしょう?」  一色の手と重ねて、心臓の上に手を置く。とくとくと力強く音が響いてくる。誰かの声がどこかでした。   『待っていた、ただお前を待っていた。                               ……間に合わなかった、そう間に合わなかったんだよ』     一歩だけ近づく、触れれば壊れそうな細い体にそっと手をそわせる。冷やりとしたその肌に熱い手が触れた。  一色の心臓は穏やかに、けれどしっかりと鼓動している。とくとくと手から伝わってくるその速度は、だんだんと速くなる。そしてそれが自分の鼓動と同じ速度だと気が付いた。  「同じ……」  「そう、あの時と同じ」  「あの時?」  「うん、あの時。でも今日は誰も邪魔は入らないよ。ここには俊太郎と僕しかいないから」  一色に触れていると、どこからかこぽこぽと湧き上がる悲しさと、情熱がある。頭が沸騰して何も考えられない。     一色を抱きしめると、ただ柔らかなその唇を覆った。

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