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第13話
そっと顔を近づける、そしてその柔らかな唇に触れる。鼓動が痛くて、今にも自分自身がはちきれてしまいそうだった。
ゆっくりと目を閉じた。
次の瞬間、ふわりと身体が浮いたような感覚があった。
目を開けると、何故かぼんやりとした風景の中に自分がいることに気が付いた。宙に浮いている?まるで空の上から寺を見下ろしているかのように、眼下に一色が立っているのが見える。
「一色、この季節にそんな薄い絣の着物を着るもんじゃない」
「和尚様、分かっております。けれど……」
「早く中に入りなさい、そろそろ日が暮れる。日が落ちると寒くなる」
「はい……」
一色は何度も振り返り、悲しそうな顔をしている。寺の山門に向かって小さく「俊太郎、どこ?」と呼び掛ける。「ここに居る!ここだ」叫んでも声は届かない。まるで、スクリーンの外から映画の中の世界に叫び続けているようだ。一色には声も届かない、そしてこちらの姿も見えないのだ。
ここに居るのに、ここに。
「一色、何をしている?風邪をひく、早く来なさい」
暗転した、そして風景が変わった。
「出して、出してください……。一色が待って……秋祭りに、連れて行くと」
泣きながら叫んでいる少年が見える。
……少年?
あれは、あれは「俺」だ。薄暗い蔵の中でその重たい扉を両手で叩きながら叫んでいる。心が同調する、痛い。一色に約束した、だから行かなくてはいけないのだ。一色が待っている、泣きそうな顔をして。
「一色、約束したのに、ごめん……」
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