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第14話
「なーかーたぁーにっ!」
いきなり誰かに後ろからズバンと頭をはたかれた。驚いてその何かを手で払うと、アスファルトの地面にバサッと少し丸まった雑誌が落ちた。
え?アスファルト?
「白崎?お前、こんなところで何してんの?」
「こんなところ?中谷、お前大丈夫か?打ちどころ悪かった、悪りぃ」
周りを慌てて見渡すと、夕暮れのいつもの通学路に立っていた。
「寺の……」
「ああ?寺って?何言ってんの?お前本当に大丈夫か?」
「いや、ちが……そこの木戸から」
「どこの?」
指さした先には、木戸はなく古い空き家が建っているだけだった。
「え?あれ?」
「お前、今日は早く帰って寝ろよ」
自分の記憶ではないはずなのに身体に染みついた情念が消えない。泣いていた自分。風邪をこじらせあっけなく逝った一色。
……二度と会う事も出来なかった。
似合うと褒めた白い絣の着物を着て、寒い秋の夕暮れひたすら待っていた一色の想いが心に焼け付くように残っていて苦しい、痛い。
「ひいろが……」
「大丈夫かお前、顔青いぞ。明日の数学のテストこけるなよ、じゃあな」
「ああ、じゃあ」
どういう事だ……?
立ったまま夢を見ていた?
手に残るその柔らかな感触、暖かい肌。一色は夢じゃない。間違いなくこの腕の中にいた。
恐る恐るその空き家の方へ近づく、割れた窓から中の様子をうかがい見た。何もない、床板が剥き出しになっていて、ところどころ穴が開いているのか雑草の頭がのぞいている。
「ここじゃない……違う。一色どこにいる?」
重たい足取りで家に帰る、扉を開けるときにもう一度振り返った。すっかり沈んでしまった太陽、空は重く暗い藍に染まっていた。
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