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第 五 話
翌朝、目が覚めると、そこにアーシャの姿はなく、武具もなかった。
慌てて身支度を済ませて部屋から飛び出す。通り過ぎようとした一人の兵を呼び止めて、アーシャの姿を見なかったかと確認すれば、馬舎の方で見かけたと言う。
(主人より先に寝たばかりか、主人より後に起きるなんて・・・最悪だ)
後を追おうとして、背後から誰かに腕を掴まれた。
「うわっ!」
アキラの背後を取った人物は、そのまま彼を引っ張っていく。
「あ、あの?」
強引に引っ張られても、振りほどく事が出来ず、アキラの頭の中は小さいパニック状態に陥っていた。
「ア、アーシャ様?」
先を行くアーシャは無言のまま、そして・・・・・・
「うわっぷっ!」
足を止めていたアーシャの背中に見事顔面から突っ込んだ。
(か、硬い・・・)
顔を抑えてその場に蹲る。
「怪我の具合は?」
(へ?怪我?)
何のことか分からないと言った表情で見上げてきたアキラにアーシャの手が伸びて、首筋に指先が触れた。
「いえ、これくらいは慣れてますから」
慌てて立ち上がり、アーシャの指から逃れる。
「・・・そうか」
すぐにアーシャは再びアキラに背を向けて歩き出した。
(心配してくださった?)
これ以上置いていかれないように主人の後を追った。
(って、主人に心配かけてどうするんだ、俺!!)
王都へ戻ってから気付く。
(・・・俺普通にアーシャ様と歩いてるけど)
斜め前を歩く主の背中を見詰める。いつもなら、近寄るなとか、姿を見せるなとか・・・言われているはず。少しずつ速度を落とし、アーシャとの距離を開ける。
ふとアーシャが足を止めて振り返った。
「診療所へ行くぞ」
突然の発言に、アキラの両の目が大きく見開かれる。
「どこかお怪我でもされたのですか?!申し訳ありません、俺全然気がつかなくって・・・」
慌てるアキラに対し、アーシャが呆れ顔で溜息をついた。
「俺はどこも怪我などしていない」
「え?あ、そう・・・ですよね?では、どなたかのお見舞いですか?」
主の人間関係を今一把握していない従者は、必死に頭の中を回転させて記憶を探る。
(アーシャ様の御学友とか、身内だとすると?)
混乱し始めたアキラの肩にアーシャが手を乗せた。
「?」
きょとんと自分を見上げてくるアキラの鎖骨に触れた。そこには首から鎖骨へかけての傷がある。禾蔵の砦で使用された薬は、王族御用達の名のある薬師が調合したもので、その効果で今はまったく痛みを感じない。
「今のうちにちゃんとした手当てを受けろ」
「・・・・・・はい?」
きょとんと主を見上げるアキラを見下ろしたアーシャの片眉が吊り上る。
「俺の言った意味が分からなかったか・・・そうか・・・」
「?」
徐にアキラの腕を取り、引っ張っていく。
「どなたかのお見舞いに行かれるのでしたら、手土産か何かを用意してから・・・アーシャ様?」
(まだ言うか!)
更にアキラの腕を強く引っ張り寄せ・・・
「わっ!!」
そのままアキラを肩に担ぎ上げた。
「あ、あの?え?」
「落とされたくなければ大人しくしていろ」
「いえ、ですが?!あの、降ろしてください!アーシャ様ぁ!!」
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